2019.4.7「知的戦闘力を高める独学の技法」山口周

今週読み終えた本「知的戦闘力を高める独学の技法」、著者は山口周さん、MBAを取得せずに独学で外資コンサルタントになった方らしい。この本から学ぶ点は多く独学に対する考え方も大きく変わったので、少し丁寧に概要をまとめてみたい。

まずは目次を示す。

序章 知的戦闘力をどう上げるか? …知的生産を最大化する独学のメカニズム

第1章 戦う武器をどう集めるか? …限られた時間で自分の価値を高める“戦略”

第2章 生産性の高いインプットの技法 …ゴミを食べずにアウトプットを極大化する“インプット”

第3章 知識を使える武器に変える …本質を掴み生きた知恵に変換する“抽象化・構造化”

第4章 創造性を高める知的生産システム …知的ストックの貯蔵法・活用法“ストック”

第5章 なぜ教養が「知の武器」になるのか? …戦闘力を高めるリベラルアーツの11ジャンルと99冊

最初に独学を

「戦略」→「インプット」→「抽象化・構造化」→「ストック」

の4ステップに分けて体系化しており画期的な技法、この考え方は目から鱗で非常に腹落ちした。

1 戦略

 どのようなテーマで知的戦闘力を高めるかを決める

2 インプット

 本やその他の情報ソースから情報を効果的にインプットする

3 抽象化・構造化

 知識を抽象化したり、他のものと組み合わせたりして独自の視点を持つ

4 ストック

 獲得した知識や洞察をセットで保存し、自由に引き出せるように整理する

今まで2のインプット、特に読書こそが独学と無意識に思い込んでいた自分に気付くことができ、この本に感謝している。以降、各ステップにおいてポイントとなる記載をまとめてみたい。

◼️戦略

・独学する対象を「ジャンル」ではなく「テーマ」で決める。ジャンルで選ぶと過去に誰かが体系化した知識の枠組みに沿って学ぶことになるので、自分ならではの洞察や示唆が生まれにくい。

・テーマとジャンルをクロスオーバーさせる。

・さらに大切なのは「自分が心の底からワクワクできるテーマかどうか」

・戦略は細かく決めすぎてはならない。偶然の連鎖を大事にすることも大切。戦略は粗い方向性だけ決めればよい。

・独学とは、「何を学ばないか」を決めること。思い付きで時間を浪費するのは、戦力の逐次分散投入と同じ、日本はこれで戦争に負けた。

◼️インプット

・「ガーベージイン・ガーベージアウト」GIGO 

 これは「ゴミを入れてもゴミしか生まれない」ということ。IT業界で使われる用語である。出力の質は入力の質で決まるという経験則。

・インプットと言うと読書を考えてしまうが、テレビ、ネット、映画、音楽など自分の五感を通じて得るもの全てがインプットとなる。情報が溢れる現在においては、要らない情報を捨てることの方が大事。

・読書の目的は4つ。

 1 仕事に必要な知識を得る

 2 専門領域を深める

 3 教養を深める

 4 娯楽

・いい本を選別することは難しい。名著、古典と呼ばれる本は長い期間の評価に耐えているだけにハズレ(間違い)がない。

 多くの本を読むのは、深く鋭く読むべき本を見つけるためである。大量の本を浅く流し読みしながら、深く読むべき本を探している。「濫読の時期がなかった人は大成しない」とは山口瞳の「続 礼儀作法入門」の言葉。

・共感できる情報ばかり集めているとバカになる。知識が極端になり独善的になり、同質化を起こす。

意見の対立がないと、質の高い意思決定は出来ない。知的水準が高くても、同じような人が集まれば意思決定の質は低くなる。

・自分を知るには、好きなものより嫌いなものを分析する方が簡単。大切なものを否定されるから怒りが起こる。

・情報には2種類ある。

 インフォメーション:いわゆる情報

 インテリジェンス:洞察や意思決定できる情報

・インプットする情報を選択することは大切だが、一方で「セレンディピティ」や「プリコラージュ」という目的外の偶然の出会いも大事である。

(参考)プリコラージュとは

 あり合わせの道具や材料で物を作ること。転じて持ち合わせているもので、現状を切り抜けること。日曜大工。英語のDIY(Do it yourself)にあたる。

レヴィーストロースは、人間の本源的な思考は、最初から完全な設計図を前提とするエンジニアの思考のような「知」ではなく、プリコラージュといわれる、あり合わせの素材を使い本来とは別の目的や用途のために流用する思考方法だと考えた。

・偶然は強い意思がもたらす必然である。

・インプットで大事なことは、メモをとること。これは、先日アップした前田さんの「メモの魔力」に詳しい。

◼️抽象化・構造化

 これも「メモの魔力」にあるのと同様、情報を使える戦力、武器にするためには必須の過程である。

・カギとなるのは、アナロジーを見つける力。アナロジーとは、複雑な物事を説明する際に、同じ特徴を持ったより身近な物事に例えて説明すること。類推とも言う。

・独学の目的は、新しい「知」ではなく、新しい「問い」を得ること。

 つまり洞察に繋がる「問い」を作る力が大切になる。問いの高い人とは、簡単に分かった気にならず、本当に分かったのかと自問し、矛盾や意味の通らない点はないかを確かめる。

・質問は好奇心から生まれる。また、知っているから質問が出てくる。知らなければ質問すら生まれない。

アインシュタインが友人であるソロビーヌに宛て書いた手紙。「自分の思考プロセス」の概念図

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*「独学の技法」から引用

アブダクション

 起こった事象をもっともうまく説明できる仮説を作るための推論法のこと。仮説形成とも訳される。

 アメリカの哲学者パースがアリストテレスの論理学をもとに提唱し、帰納法演繹法と並ぶ第3の推論法として、新たな科学的発見に不可欠なものとして主張した。

◼️ストック

・本の読み方は「アンダーラインを引く→選別→転記」の3ステップ。

・忘却を前提(インプットされた情報の9割は短期間に忘れてしまう)とした、ストックが大事。つまり転記により、いつでも検索でき取り出せる状態にすること。

 

知的戦闘力とは、「洞察力」と「創造性」

・洞察力とは、「現象の背後で何が起きているのか?」「このあと、どのようなことが起こり得るのか?」という2つの問いに答えを出すこと。

・創造性とは、スティーブ・ジョブスの次の言葉が本質を突いている。

「創造性とは何かを繋げること。自分の経験から得られた知見を繋ぎ合わせて、それを新しいモノゴトに統合させる。」

・創造性にはレバレッジがきく。10個の知識を持っている人と100個の知識を持っている人では、組み合わせによって得られるアイデアの数はそれぞれ45個と4950個になる。つまり知識の量が10倍になれば生み出されるアイデアの数は100倍以上になる。

リベラルアーツを学ぶ理由として著者は5つ上げている。

 ①イノベーションを起こす武器となる

 ②キャリアを守る武器となる

 ③コミュニケーションの武器となる

 ④領域横断の武器となる

 ⑤世界を変える武器となる

・著者が勧めるリベラルアーツ11分野。

歴史、経済学、哲学、経営学、心理学、音楽、脳科学、文学、詩、宗教、自然科学

・歴史を学ぶとは、表面的な事実だけでなく、内部のメカニズムを考えること。そうすれば次に起こすべき行動の指針が得られる。

・経済学を学べば、市場のルールや価値の本質を見抜けるようになる。

・哲学を学べば、疑う力、否定と肯定を使い分ける力が身につく。考えることと悩むことは違うことに気づく。

・心理学によって、人間の不合理さや不条理性を理解する。

・音楽を学ぶことで、全体を直感的に把握する力が身につく。

脳科学により人間が起こすエラーパターンを学ぶ。人間の脳にはバグがある。

・詩により、表現力とりわけ比喩表現の強化が図れる。

・宗教は、人間のグループによる思考、行動様式を理解する手助けになる。