2019.5.6「影響力の武器」ロバート・B・チャルディーニ

久しぶりに読み返した「影響力の武器~なぜ、人は動かされるのか」(ロバート・B・チャルディー)、これで3回目。何度読んでも、読むたびに気付き学ぶことが多い。

私たちは、自分の自由意思で物事を決めていると思い込んでいるが、実際は無意識のレベルで影響を受け、その影響により行動している。チャルディーニは、この影響力を大きく6つに分類し、様々な研究や実験をもとに、具体的事例から分かりやすく解説している。

この本で紹介されている影響力の武器は次の6つ

①返報性、②コミットメントと一貫性、③社会的証明、④好意、⑤権威、⑥希少性

 まずは目次を示す。

第1章 影響力の武器

第2章 返報性…昔からある「ギブ・アンド・テイク」だが・・

第3章 コミットメントと一貫性…心に住む小鬼

第4章 社会的証明…真実は私たちに

第5章 好意…優しい泥棒

第6章 権威…導かれる服従

第7章 希少性…わずかなものについての法則

第8章 手っとり早い影響力…自動化された時代の原始的な承諾

各章のポイントを以下にまとめる。

 

第1章 影響力の武器

・動物は、「ある一定の刺激に対し決まった行動をする」という、あらかじめプログラムされた固定的な行動パターンを持っている。このパターンは多くの場合うまく機能する。動物である人間も同様である。

・人に何か頼み事する時には理由を添えると成功しやすくなる。人は単純に自分がすることに対して理由を欲しがる。コピー機に並んでいる人に対する実験では、

 「すみません。5枚だけなんですけど先にコピー取らせてくれませんか?」と頼んだ場合は60%の人が承諾。「すみません。5枚だけなんですけど、コピーを取らなければならないので、先にコピー取らせてくれませんか?」と頼んだ場合は、なんと93%が同意した。

・人は多くの場合、ある引き金に対して決められた反応を自動的にすることによって、貴重な時間やエネルギー、意志力を失わずに済ませることができている。この私たちが日常よく使う心理上の簡便法を「判断のヒューリスティック」と呼ぶ。

例えば、「高いものは良いものだ」「専門家が言うことは正しい」など。

・人間の知覚には「コントラストの原理」というのがある。二番目に提示されるものが最初に提示されるものとかなり異なっている場合、それが実際以上に最初のものと異なっていると感じてしまう傾向がある、ことをいう。

高価なスーツを購入した後は、セータやネクタイが実際以上に安く感じる。あるいは、高価な車を買った後は、数万円もするオプションがとても安く感じてしまう、など。

 

第2章 返報性

・この返報性のルールは、影響力の武器の中でも最も強力であり、「他人から受けた恩恵は、似たような形でそのお返しをしなくてはならない」というもの。

このルールは、民族や文化の違いに関わらず、すべての人間社会に浸透している。また、人間社会にだけある特徴でもある。

・著名な考古学者リチャード・リーキーは、「私たちを人間たらしめているのは返報性のシステムである」「私たちの先祖は、恩義のネットワークの下で食料や技能を共有してきた。そうすることで人間として進化することができた」と言っている。

・この返報性のシステム(報恩が織りなすネットワーク)によって、人々の労働が分担され、多種多様の物やサービスが交換され、結果、専門家が生まれた。そして、このことによって生み出される相互依存性が人々を結び付け、高度に能率的な社会が誕生した。つまり、「受けた恩義に必ず報いなければならない」という義務感は、社会の進歩にとって不可欠のものであった。

・社会の進歩、人間の進化という長い過程の中で、私たちは他人から恩義を受けると、その恩義を重荷に感じ、早く下ろしたいと思うようになった。

・同時に、返報性のルールを破る人、すなわち他者の親切を受け入れるだけで、それに対しお返ししようとしない人は、「たかり屋」「恩知らず」というレッテルを貼られ、社会のメンバーから嫌われるようになった。

・返報性のルールの特筆すべき三つの特徴

①このルールは極端までに強力な力を持っている。相手が嫌い、思想信条が異なるなどの他の条件を凌駕してしまう。

②このルールは、望んでいない好意を受けた場合でも適用される。借りを作る相手を自分で選ぶことはできず、その選択を他者の手に委ねることになる。

③このルールによって不公平な交換が導かれることがある。人は「恩義を受けてまだ返していない」という不快な気持ちを解消するため、親切を施された相手から何か頼まれると、それ以上のことをしてあげることが多い。

・試食をしたり、無料の試供品をもらうと「少しは買わないと悪いかな」と思うのも、この返報性のルールによるもの。

・相手の譲歩を引き出すためにも、このルールは利用される。

断られることを前提に大きな要求をし、断られると最初に譲歩して、そのお返しとして相手の譲歩を引き出す。これが「拒否したら譲歩」あるいは「ドア・イン・ザ・フェイス」と呼ばれるテクニックである。

拒否されるような大きな要求から、次に小さな要求(もともと目標としていた要求)に引き下げる。するとこの引き下げが譲歩に見られるため、相手に返報性のルールが働きこの要求が受け入れられやすくなる。

・知覚のコントラストの原理を、この譲歩戦略(拒否された後で要求を引き下げるという方法)の中に統合することによって、驚くような効果をもたらす。つまり、返報性と知覚のコントラストの影響を組み合わせることで、恐ろしいほどの強力な力が生み出される。

 

第3章 コミットメントと一貫性

・コミットメントと一貫性は、先の返報性に次いで強力な影響力を持つ。これは、ほとんどの人が持っている「自分の言葉、信念、態度、行為を一貫したものにしたい。また、他の人にそう見られたい」という欲求のことである。

・この欲求は、三つの要素によってもたらされる。

①一貫性を保つことによって、社会の他のメンバーから高い評価を受ける。

②一貫性のある行為は、一般的に日常生活にとって有益である。

③一貫性を志向することで、複雑な現代社会をうまくすり抜けるシンプルな対応が可能となる。つまり、今までの決定と一貫性を保つことで、類似した状況に将来直面した時に、関連する情報すべてを処理する必要がなくなり、以前の決定を参考に、それと一貫するように対応すればよくなる。

 ・コミットメント、つまり自分の意見を言ったり、立場を明確にすること、をしてしまうと、人はそのコミットメントに合致した要請に同意しやすくなる。

したがって、多くの承諾誘導の専門家は、後で要請しようとしている行動と一貫するようなコミットメントを最初に取らせようと誘導する。

・しかし、すべてのコミットメントが同じように効果的ではない。行動を含み、公にされ、努力を要し、自分で選択した(強制されたのではない)コミットメントが最も効果的である。

・コミットメントを伴う決定は、それが間違っている時でさえ、人はその決定に固執するようになる。つまり多くの場合、人は自分がしたコミットメントについて、それが正しいということを示す新しい理由や正当性を付け加える。その結果、コミットメントを生んだ状況が変わった後でさえ、そのコミットメントの効力が持続することになる。

このような現象によって、「ローボール・テクニック」のような、人をだます承諾誘導のテクニックがなぜ効果を発揮するのかを説明することができる。

※ローボールテクニック:まず最初に、うまい話で重要な決定、つまりコミットメントを引き出しておいてから、徐々に好ましくない条件を付け加える、というやり方。

 ・カナダの心理学者の研究では、「馬券を買ったあとでは、馬券を買う前より、自分が賭けた馬の勝つ確率を高く見積もる」ということがわかった。

これは、自分が既にしたことと一貫していたいという、ほとんど強迫的とも言える欲求によるもの。人はひとたび立場を明確にすると、一貫性への欲求から自分がしたことと一貫するように感じたり信じたりするようになる。「自分は正しい選択をした。間違いなく十分に満足している」と、自分自身に信じ込ませる。

つまり、自分がこの馬券を買った以上は、「自分の選択は正しい、この馬が勝つ」と信じなくてはならない、という強い心理的圧力がかかるのである。

・ある問題に対して自分の立場をはっきりさせてしまえば、一貫してそれに固執することで大きな満足感が得られる。なぜなら、それ以上、その問題について真剣に考える必要がなくなるのだから。考えないで一貫性を保つことは人間にとって快適である。

「考えるという本当の労働を避けるために、人はどんな手段にも訴える」by ジョシュア・レイノルズ卿

言い換えれば、一貫性が思考からの退避場所としての役割を果たす、ということ。

・小さな要請から始めて、関連する大きな要請を最終的に承諾させるというやり方を、「フット・イン・ザ・ドア」テクニックと呼ぶ。これも、一貫性の原理を利用した手法である。

「安全運転をしよう」と書かれた看板を取り付けるように依頼した場合、承諾したのは17%。ところが事前(2週間前)に「安全運転するドライバーになろう」とかかれた3インチ四方のシールを玄関の上に貼ってもらっていた場合には、76%の家が看板取り付けを了承した。

・行動を伴うコミットメントをすると、二つの面から一貫性圧力がかかる。

①内からは、自己イメージを行動に合わせようとする圧力

②外からは、他者が自分に対して描いているイメージに、自己イメージを合わせようとする圧力

・「書くことには魔術的な力がある」

目標を設定し、その目標を紙に書くことで、人はより強くその目標にコミットさせられる。人は、書いてしまったことに見合うように行動する。

人は自分の言葉を裏切ることができない。

・何かを得るために大変な困難や苦痛を経験した人は、同じものを最小の努力で得た人と比べて、自分が得たものに対して大きな価値を置くようになる。

・人は外部から強い圧力を受けずにある行為をすることを選択すると、その行為の責任は自分にあると考える。逆に外部の圧力によってある行為を行った場合には、その行為にコミットしたとは思えない。価値ある報酬というのも外部からの圧力の一つ。それは、人に何かをさせることはできても、その行為に対する責任を感じさせることはできない。

・ローボールテクニックの具体例、オハイオ州立大学での実験。「学生に朝7時からの研究に参加してもらう」ということに同意する学生がどの程度いるかを調べたもの。最初から開始時刻が朝7時と告げた場合は、24%が同意した。次に、まず研究に参加したいかどうかを尋ね回答してもらってから時刻を告げた場合は、56%の学生が同意した。しかも研究に参加すると答えて後、開始時刻を聞いて考えを変えた学生はいなかった。さらに95%の学生が本当に約束の7時までに学校にやってきた。

このようにローボール・テクニックが印象的なのは、不利な選択で人を満足させることができるという点である。

 

第4章 社会的証明

・社会的証明は、「返報性」と「コミットメントと一貫性」にならぶ三大影響力の一つである。これは、人がある状況で何を信じるべきか、どのように振る舞うべきかを決めるために使う重要な手段の一つは、他の人々がそこで何を信じているか、どのように行動しているかを見ることである、というもの。

・他人を模倣することの強力な効果は。子供にも大人にも見られ、また、購買における意思決定、寄付行為、恐怖心の低減など、多様な行動で認められる。他の多くの人々が要請に応じた、あるいは応じていると告げるだけで、ある人をその要請に応じるように促すことができる。

・社会的証明は、二つの状況において最も強い影響力を持つ。

①不確かさ…人は状況が曖昧なとき、確信が持てないとき、他人の行動に注意を向け、それを正しいものとして受け入れようとする。

②類似性…人は自分と似た他者のリードに従う傾向がある。類似した他者の行動が人々の行動に強い影響を与える。

・他者の行動によって自分の行動が適切かどうかを判断するのは、多くの場合うまく機能する。一般的には、社会的証明に合致した行動をとるほうが、それと反対の行動をとるよりも、間違いを犯すことは少ない。

・自分で何を買うかを決められる人は、全体の5%、残りの95%は他人のやり方を真似する人たちである。

・犬を怖がる子供に、同じ年ごろの子供が犬と戯れている様子を1日20分間見せると、4日後には一緒に犬と遊ぶようになった。泳げない子供に、同じ年ごろの子がプールで泳ぐ様子を見せると、その日に泳げるようになった。(類似性)

・人通りが多い歩道に立ち空をしばらく見上げてみる。たいていの人は見上げることなく通り過ぎる。次に、4人の友達を連れて同じ場所に行き、一緒に空を見上げてみる。60秒以内に多くの通行人が立ち止まり、同じように空を見上げるだろう。過去の実験によれば80%の通行人が空を見上げた。

・「集合的無知」…曖昧な状況のもとでは特に、他の人が何をしているのかを知ろうとする傾向を皆が持つことにより、集合的無知と呼ばれる現象が生じる。この一つの例として、人は集団になると援助をしなくなる、ということがある。これは、彼らが不親切だからではなく、確信が持てないために他人の様子を伺い合うことにより、誰も行動しないから緊急事態ではないと判断し、結果誰も援助しないということに陥る。

・「ウェルテル効果」…ドイツの文豪ゲーテは「若きウェルテルの悩み」と題する小説を出版した。主人公ウェルテルの自殺を扱ったこの本は、ヨーロッパ中でウェルテルを真似た自殺が相次ぐという驚異的な影響を及ぼした。いくつかの国では発行禁止にしたほど。

・誰かの自殺が新聞の1面を飾ると、その自殺が広く公表された地域で、その直後、飛行機や自動車事故が急増する。新聞がその自殺を取り上げなかった地域では、事故は増加しない。

一人だけの自殺の新聞記事の後は、一人の事故死が増加し、自殺プラス殺人が報道されると多数の死者が出る惨事が増加する。

これは、まさに社会的証明が顕在化した例である。彼らは自分が自殺下を見られることを望んでおらず、事故死として扱われたいと考えた。模倣が鍵なのである。

新聞が若い人の自殺を報じると、その後の事故では若いドライバーが増え、老人の自殺がニュースで流れた後には、お年寄りのドライバーによる事故が増える。

・千人の共同社会というのは、一人の人間のパーソナリティの力によって支配するには大き過ぎる。しかし、群れの心理を操るのは容易なことである。何人かのメンバーを自分が望む方向に向けておきさえすれば、残りの人々は、おとなしく、そして機械的に従うものである。

・社会的証明の原理を使った例として、テレビのお笑い番組で使われる「録音笑い」がある。また、グランドオペラにも「歌劇成功請負人」という肩書のもとサクラを行うことが、パリで1820年から始まったと言われている。サクラにはリーダがいて、その合図で泣く‘’泣き手‘’、笑う‘’笑い手‘’、さらには「もう一度」とか「アンコール」を繰り返す‘’叫び手‘’がいた。これらのサクラを募集した新聞広告も残っており、この広告には料金まで載っている。

 

第5章 好意

・人は自分が好意を感じている知人から頼みごとをされると、つい「イエス」と言ってしまう傾向がある。好意を高める要因には次の五つある。

①身体的魅力…好意に影響する要因の一つとして、その人の身体的魅力がある。身体的な美しさが社会的相互作用の中で有利に働く、しかも我々が想像している以上に。

身体的魅力は、ハロー効果を生じさせ、才能や親切さや知性など他の特性についての評価を高める。

②類似性…私たちは、自分に似た人に好意を感じる。そのような人からの要求に対しては、あまり深く考えずにイエスという傾向がある。

③賞賛…好意を高める方法の一つに、賞賛がある。あまり露骨だと反感を買うが、お世辞は一般に好意を高め、承諾を引き出しやすい。

接触…心理学の世界では単純接触効果として知られている。人や事物と接触を繰り返すことで親密性を高めることも、好意を促進する一つの方法である。ただし、不快な環境でなく、快適な環境の中で接触することが条件となる。

⑤連合…広告担当者、政治家、商人は、自分自身や商品を望ましいものと結び付け、連合のプロセスによって、その望ましさを分かち合おうとする。スポーツファンによく見られるように、好ましい事象と自分が結びついていること、好ましくない事象と自分が切り離されていることを他者の目に印象付けようとする。

・ハロー効果とは、ある人が望ましい特徴を一つ持っていることによって、その人に対する他者の見方が大きく影響を受けることをいう。身体的魅力がしばしばそのような特徴として作用する。

美人は有罪になりにくい、など外見の良い人たちが法律的に有利な扱いを受けるというのは今では明らかになっている。教師も、外見の良い子供のほうが、そうでない子供よりも知的であると考えていた。

・自分のことを好きだという情報は、お返しとしての好意と自発的な承諾を生み出す、魔法のような効果を持っている。私たちは、お世辞によって、おめでたいほどだまされやすい存在である。好意的な評価は、それが真実であれ偽りであれ、そのお世辞を言う人に対して等しく好意を生じさせた。

・批判を最初にして、賞賛は後回しにする。最も効果の高い賞賛の方法は、最初はあまり良いことは言わず、後で徐々に賞賛を高めていくのを、何気なく本人に聞かせるというもの。初めから自分についてよい評価を聞かされた場合よりも、ずっと好意を感じるようになった。

・あなたをそのまま映した写真と、左右反転した写真の2枚を用意し、どちらの写真が好きか選ぶとどうなるか。友人は、正しくプリントされた写真を好み、あなたは反転した写真を好む。これは友人もあなたも普段から見慣れた顔に好意を示すからである。友人は世間の人から見た視点の顔に、あなたは鏡で見る左右反転の顔に反応する。

・古代ペルシャ皇帝の勅使は、勝利の知らせを伝えた場合は、英雄として迎えられごちそうでもてなされた。しかし、それが戦いの敗北の知らせであれば、即座に殺されてしまった。「悪いニュースは、その話し手にも伝染する」つまり、人間には不快な情報をもたらす人を嫌う傾向がある。

悪い出来事でもよい出来事でも、それと結び付けられることが、人々が私たちに対しどのような感情を抱くかに影響を与える。

・他のすべての条件が同じなら、人は自分と同じ性別、同じ文化、同じ地方の人を応援する。応援する相手が誰であれ、その相手が自分の代理になる。そしてその人が勝つということは自分が勝つということと同じなのである。彼が証明したいのは、自分が他の人より優っているということなのである。

勝てば「We(俺たち)」、負ければ「They(彼ら)」になる。

・心の深層に「自分は価値が低い人間」との思いがあると、自分自身の業績を高めて名声を得るのではなく、他社の業績との結びつきを形成し、それを強めることで名声を得ようとする。その最も顕著な例は「ステージ・ママ」である。

 

第6章 権威

ミルグラムの実験からもわかるように、正常で心理的に健康な人たちの多くが、権威者から命令されると、自分の意に反して、進んで権威者の指示に従う。

正当な権威者に従うという傾向は、そのような服従が正しいことであるという考えを社会のメンバーに植え付けようとする、体系的な社会化から生じている。

一般的には、本当の権威者は優れた知識と力を持っていることが普通なので、そうした人に従うことは適応的な行為であることが多い。したがって、権威者に対する服従は、一種の短絡的な意思決定として、思考が伴わない形で生じてしまう。

・権威に自動的に従う場合は、その権威のシンボルに反応してしまう傾向がある。

①肩書き ②服装 ③装飾品 この三つのシンボルが効果を発揮する。

いずれの場面でも服従した人は自分の行動に及ぼす権威者の影響力を過小評価する。

・権威者の影響力の有害な効果から身を守るためには、「この権威者は本当に専門家なのか」、「この専門家はどの程度誠実なのか」という二つの質問を発することが重要。

・オーストラリアの大学で行われた実験では、ある男性を、学生、実験助手、講師、助教授、教授として紹介したところ、地位が上がるごとに同じ男性の身長が平均1.5センチずつ高く知覚されることが分かった。「教授」の場合は、「学生」の場合より6センチも高く知覚されたのである。(まさに相手に大きく見せることで威嚇する動物と同じ)

・サンフランシスコで行われた信号が青になってもすぐに発信しない場合、クラクションを鳴らすまでの時間を調べた実験。ベンツなどの高級車の場合と、旧型のエコカーの場合では、明らかに高級車の場合の方が、クラクションを鳴らすまでの時間が長かった。エコカーの場合はほとんどのドライバーがクラクションを鳴らしたのに対し、高級車では約50%のドライバーが前の車が動くまでクラクションを鳴らさなかった。

 

第7章 希少性

・希少性の原理によれば、人は機会を失いかけると、その機会をより価値の高いものとみなす。お店でよく見られる「数量限定」「最終期限」などは、この原理を応用したもの、提供する量や時間に限りがあることを私たちに信じ込ませようとする。

・希少性の原理が効果を上げる理由は二つ。

①手にすることが難しいものは、それだけ貴重なものであることが多いので、入手できる可能性がその物の質を判断する手っ取り早い手がかりとなる。

②手に入りにくくなると、私たちは自由を失うことになる。

・希少性の原理は、物の価値だけでなく情報の評価にも影響する。あるメッセージに近づくことが制限されると、人はそれを手に入れたくなり、また、好ましく思うようになる。また、制限された情報はより説得力がある。メッセージに独占的な情報が含まれていると一層効果的になる。

・希少性の原理をより有効にする条件

①希少なものの価値は、それが新たに希少なものとなったときに一層高まる。すなわち、すでに制限されているよりも、新たに制限されるようになったものの方に価値が置かれる。

②私たちは、他人と争って求めているときに希少性の高いものに最も引きつけられる。

・不鮮明な切手、二度打ちされた硬貨などの「貴重なミス」による欠陥が希少性を高め価値を持つことになる。

心理的リアクタンス理論…自由な選択が制限されたり脅かされると、自由を回復しようとする欲求によって、その自由を以前よりずっと強く欲するようになる。妨害に反発(リアクトル)するのである。

・「ロミオとジュリエット効果」…障壁が置かれたことによって情熱の炎に油が注がれる結果になった。コロラドの140組のカップルについての研究では、親の干渉が強まると愛情も強まり、干渉が弱まると愛情も冷めていた。

・革命の担い手となりやすいのは、よりよい生活の味を幾分か経験した人々である。彼らが経験し当然のものと当てにするようになった経済的・社会的改善が突然手に入らなくなった時に、彼らは以前にもましてそれを欲するようになり武力蜂起することになる。

 

第8章 手っとり早い影響力

・人間の脳の情報処理能力にも限界がある。そこで効率性を求めるため、豊富な情報をもとに時間をかけて行う洗練した意思決定から、より自動的で原始的な、単一の特徴に導かれるタイプの反応へと後退することがある。

・決定を下すとき、状況全体を十分に考慮して分析することが少なくなり、逆に、その状況の中にある特徴のうち、たいていの場合は信頼性の高いたった一つの特徴だけに注意を向けるようになった。

・私たちは通常は、信頼性の高い単一の情報を基礎にして承諾するか否かの決定(すなわち同意したり、信じたり、何かを買うこと)を行っている。

最も信頼性が高い、故に最もよく使われる承諾誘導の引き金が「返報性、コミットメントと一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性」である。