2019.6.30「宇宙は本当にひとつなのか-最新宇宙論入門」村山斉

「宇宙は本当にひとつなのか-最新宇宙論入門」村山斉著

この本は数年前に読み、最近あらためてオーディオブックで聞き直した。

村山さんの本は好きでよく読んでいるが、この本も最新の宇宙論が非常にわかりやすく書かれており楽しく読み終えた。

まず、冒頭の次の言葉で興味を引き付けられる。

・星や銀河、それを形作るすべての元素のエネルギーを合わせても、宇宙全体の4.4%しかない。残りの約23%は「暗黒物質」、約73%は「暗黒エネルギー」である。このことがはっきりしてきたのは、2003年以降のこと。

この本を聞きながら、不思議な宇宙について思いを巡らすと、なぜか謙虚な気持ちになる。

いつものように目次を示したうえで、心に残った部分を簡単に要約してみたい。

<目次>

第1章 私たちの知っている宇宙

第2章 宇宙は暗黒物質に満ちている

第3章 宇宙の大規模構造

第4章 暗黒物質の正体を探る

第5章 宇宙の運命

第6章 多次元宇宙

第7章 異次元の存在

第8章 宇宙は本当にひとつなのか

・私たちの地球が存在している天の川銀河の中心にもブラックホールはある。これは太陽の約400万倍の重さを持っている。他の銀河にはもっと重いブラックホールも存在しており、太陽の100億倍もあるものも。。。

暗黒物質がないと、星や銀河ができず、したがって私たちも生まれないことになる。宇宙には1000億個の銀河があるが、それもすべて暗黒物質のお陰で誕生した。

・今から137億年前に宇宙は誕生し、誕生して10の34乗分の1秒後にビッグバンが起こり、3分間にヘリウム等の原子核ができた。さらに宇宙が膨張し38万年後になると光が真っ直ぐ進めるようになった。これが「宇宙の晴れ上がり」と言われる現象。この38万年後の光を私たちは見ることができる。

この光は今では引き伸ばされて電波になっており「宇宙背景放射」と呼ばれる。マイナス270.4℃、絶対温度2.75Kでビッグバンの名残を宇宙全体に残している。

・物質を作っている素粒子のグループは「フェルミオン」、力の働いている物質間でキャッチボールされる素粒子は「ボソン」と呼ばれる。さらに、もう一つのグループがある。それが、すべての素粒子に質量を持たせる役割の「ヒッグス粒子」である。

・ボソンには、電磁気力を伝える「光子」、強い力の「グルーオン」、弱い力の「ウィークボソン」がある。さらに、まだ見つかってはいないが重力を伝える「グラビトン:重力子」が予測されている。

・銀河という構造が宇宙にできたのは、宇宙が約6.5億歳のときからと考えられている。

暗黒物質は異次元からやって来たという説もある。私たちが認識している4次元の世界は、5次元以上の時空に埋め込まれた膜のようなもので、私たちはこの膜の上でしか動けないが、この膜から自由に出入りできる粒子も存在している、という考え方である。たとえばアメリカの物理学者リサ・ランドール博士は「ワープする宇宙」の本のなかで「この4次元の膜が二つ平行に並んでいて、その間に空間がある。この空間は片側が小さくて、もう片側が大きいという不思議な形=ワープしている」と書いている。これは今かなり有力な理論で、まじめに考えられている。

・「宇宙は常に膨張しているが、膨張速度は徐々に遅くなっている」と思われてきたが、超新星爆発の観測からは宇宙の膨張する速度がどんどん速くなっている、という答えが返ってきた。これを説明するためには、引力に対抗して宇宙を広げるように斥力を利かせるものが必要になる。宇宙が大きくなっても薄まらない何かがある。その何かが暗黒エネルギー。そして、なぜかはわからないが、この暗黒エネルギーはエネルギー量が増える。

・多元宇宙という言葉には、大きく分けて二つの意味がある。一つ目は「多次元」の宇宙。次元というのは時間や空間の広がりを表すもので、私たちの目には宇宙空間は3次元に見えている。私たちは上下、左右、前後と三つの方向に動けるので3次元空間と言っているが、実は私たちが気づいていない方向があるかもしれない。つまり、この宇宙空間には3次元以上の次元があるという考えを多次元宇宙という。

・二つ目が「多元宇宙」。多次元宇宙は次元は多くなっても、宇宙の数は一つのままであった。多元宇宙は、「宇宙はたくさんある」という考え方である。私たちが住んでいる宇宙は、たくさんある宇宙の中の一つで、この宇宙には他にもたくさんの宇宙があるかもしれない、という考え方。

・一般には、空間は3次元、時間は1次元であわせて4次元時空と言われている。宇宙は「超ひも理論」によれば10次元と予言されている。つまり10ー4の6次元が私たちの知らない異次元ということになる。

・私たちが3次元空間とは別の方向にある次元に気づかない理由としてもっとも有力なのは、「3次元以外の次元はすごく小さい」というもの。異次元の方向というものが小さくて丸まって曲がった空間であるため、人間は気づかないだけだということだ。

・電磁気力は3次元空間にへばりついていて、重力は異次元にもにじみ出る、という違いを認めると、両者の力の強さの違いが説明できる。

 アインシュタインが言うには、「重力とは空間を曲げるもの」だということ。つまり重力は空間の性質として説明できるので、異次元であろうと空間である限りは、重力の作用で曲がる、と考えられる。重力は特別であって、どの次元でも動くことができるが、電磁気力は3次元の膜にへばりついている、と考えられる。

・多元宇宙の考えは、物理学者エベレットが唱え出した量子力学の「多世界解釈」から、まじめに議論し出した。

量子力学では不確定原理が働くが、エネルギーでも変なことが起こる。波の性質も併せ持つ粒子は、狭いところに押し込められると非常に激しく揺れる。つまりミクロの世界で粒子を短い時間観測すると、とても大きなエネルギーを持っているように見える。これは言い換えると、ほんの少しの時間であれば、他からエネルギーを借りてくるようなことができるということ。この借りてきたエネルギーで粒子や反粒子を作っている。

・真空は空っぽな空間だと思ってしまうが、実は粒子と反粒子はたくさんできたり消えたりしている。粒子や反粒子はエネルギーがないとできない。真空の中ではエネルギーの貸し借りが起こり、たくさんの粒子や反粒子ができては消えてを繰り返している。

超ひも理論を使って宇宙の性質を調べていくと、宇宙が文字通り天文学的な数存在する可能性が出てきた。そこで出てきたのが「人間原理」という考え方。

 この宇宙はうまくできすぎている。宇宙のことを観測するのは人間である。つまり人間が生まれないということは、観測されないので存在しない、もしくは存在しないことと同じこと。たくさん生まれた宇宙のなかで、ごく稀に条件がそろった宇宙に人間が生まれ、そのような特殊な宇宙だけが科学の対象になり、私たちが見ることができる。これが「人間原理」の理論である。

・時間は一次元のときは、前と後ろがはっきりしているので、時間の向きが決められる。しかし二次元になると、前と後ろがわからなくなる。そうすると過去に戻ってしまうということが起こる。過去に戻れる宇宙は、いろいろな問題が起こる。時間が二次元以上の可能性はあるものの、こういう理由からとりあえず時間は一次元としておくというのが、今の物理学の考え方。