2019.4.1「知識創造の方法論〜ナレッジワーカの作法」野中郁次郎、紺野登

「知識創造の方法論〜ナレッジワーカの作法」 野中郁次郎、紺野登

私の読書を変えた本でもある「失敗の本質」の著者、野中郁次郎さんの書かれた本である。オーディオブックで購入し、やっと聞き終えた。私にとってはかなり難しい内容で知らない言葉も多く、何度も聞き返し知らない言葉はググるなど読み終える(聞き終える)まで2週間ほど費やした。

さらには、より深く理解するため、同じコンビで書かれた「知識経営のすすめ〜ナレッジマネジメントとその時代」を購入し読み始めたところである。

まずは、この本の全体像を理解するため目次を示す。

ーーーーー<目次>ーーーーーーー

序 知の方法を身にまとう

 1 新たな経営の知

 2 ナレッジワーカの時代

第1部 知の方法論の原点

 1 哲学にみる知識創造の知

 2 知識創造論で見た知の型

 3 知識創造プロセスと弁証法のダイナミズム

第2部 社会科学にみる知識創造の知

 1 科学の知の方法論の意味合いとその変遷

 2 社会学の知のアプローチ:構造、行為、意味、統合

 3 潜在的カニズムの発見へ

 4 新たな経営の知に向けて:総合の知

第3部 「コンセプト」の方法論

 1 コンセプトとは何か

 2 「観察」の方法論:アイデアの源泉としての経験

 3 「概念化」の方法論:意味の発見と形成

 4 「モデル化(理論化)」の方法論

 5 「実践化」の方法論

 6 日常的行為へ

第4部 経営と知の方法

 1 企業の知の型(組織的知識創造)

 2 ナレッジ・リーダシップ

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まず、この本を読むにあたって基礎知識として必要なのがSECIモデル(セキモデル)。これは、野中郁次郎氏が、個人における知を「暗黙知」と「形式知」に分類し、その知をどのように循環させ、企業に根付かせていくかのプロセスをSECIモデルとして概念化したもの。個人の知(暗黙知)は、「共同化」、「表出化」、「連結化」、「内面化」という4つの変換プロセスを経ることで、集団や組織の共有の知となるという考え方である。

「共同化」Socializaition  暗黙知 ⇒ 暗黙知

 経験を共有することで、暗黙知を共有(人から人へ移転)すること

「表出化」Externalization 暗黙知 ⇒ 形式知

 暗黙知がメタファー、アナロジー、コンセプト、仮説、モデルなどの形を取りながら言葉で表現され形式知となり集団で共有されること

「連結化」Combination  形式知 ⇒ 形式知

 形式知を組合せたり、再配置することで新たな形式知を生み出すこと

「内面化」Internalization 形式知 ⇒ 暗黙知

 形式知暗黙知へ身体化すること。言い換えると形式知を自らのスキルやノウハウとして体得すること。形式化されたナレッジが新たな個人へ内面化することで、その個人と組織の知的資産となる。

 

以下に、ランダムではあるがポイントと思われる部分、あるいは心に残った文章を記載する。

・「ナレッジワーカーは間接部門ではない。知的価値を生み出す直接部門である。」日本で知的な仕事と言うと、間接部門の仕事であり、直接部門は物を作るところと考えがちだが、既に世界は変わっている。知的な活動こそが「価値=利益」を生む直接部門の仕事である。

・日本の部長課長が考えていることは、せいぜいA4用紙2~3枚程度の内容に過ぎない。日本の管理職に求められているのは、段取り力や部下をまとめる能力。概念とか思考は邪魔になると考えられてきた。

しかし、グローバルな世界では1冊の本に相当する深い思考力、教養がないと対等に会話すらできない。

 ・デュルケムの自殺論:自殺は個人的問題ではなく、社会的集合現象と捉える。

 「プロテスタントカトリックより自殺率が高い」

 「独身者は既婚者より自殺率が高い」

 「子供のない家庭はある家庭より自殺率が高い」

という統計データから次のことが言える。

「社会的結合力の強弱が、個人の不安の強弱に影響する」その結果が自殺という事象として表面化する。

人々の行動を規定している規則やルールには意識的なものと無意識によるものの二通りある。自殺は個人の自発的意思によるものでではないと考え、自殺を可能な限り自殺率という統計データだけを用いて分析することで、真の原因が見えてくる。

・よい物語(ストーリーテリング)の特徴

①明確に定義された1つのテーマ

②よく練られた筋書き、スタイル

③生き生きとした絵を見るような叙述

④微笑ましい音やリズム

⑤人格化されていること

物語は、太古の昔から存在する優れた「知識伝達の方法論」。

暗黙知の持つ豊かさを失わずに伝達できる。つまり、自分の経験である暗黙知をすべて形式知化してしまうことなしに「場」や「状況」を含めて伝える方法である。

・聞き手に伝わる物語 4つのポイント

①聞き手と結びつきがある

 聞き手に関わりのあるアイデア、または共感できる主人公の設定

②奇妙さがある(一般論や常識論は面白くない)

 聞き手の期待や気持ちを揺さぶるストーリー

③理解しやすい

 感情や感覚に訴えるように語る

④ハッピーエンドである

 何より大切なのがこれ、物語はハッピーエンディングしなくてはならない。

サントリーの「ボス」とホンダの「オデッセイ」、これらのコンセプト作りから学ぶことは多い。

 コンセプトを、¨表コンセプト¨と¨裏コンセプト¨に分け定義する。コンセプト創造のためには、頭で考えるだけでなく「体験」することが大事。ヘビーユーザを徹底的に知ることでアイデアの原型が生まれる。

(表コンセプト → 裏コンセプト → 真コンセプト)

・コンセプト創造のステップ

1 観察(アイデア

 観察、対話、経験を通して意図を理解し、アイデアの原型を得る

2 概念化(コンセプト)

 アブダクション的思考により意味を発見し、背後のメカニズムを把握する

3 モデル化(理論)

 変数へのブレークダウンから、因果関係を発見し理論化する

4 実践化

 「物語」の知により知識としての表現や移転を行う

・コンセプトを結果に見立て、その原因を探るというアプローチも有効である。コンセプトを構成する各要素間の因果関係を明らかにして、コンセプトの背後にある要素を変数として表現する。

商品コンセプトは、複数の変数の組み合わせで象徴的な意味を表すパターンが多い。

(例)「○○と△△の働きで体の自然なバランスを生み出す」「△△と○○の調和が生み出す街の賑わい」

 ・「守破離」は、いわば日本的な弁証法的思考法である。松下電器パナソニック)、ソニーには、コヒーレンス(首尾一貫性)とともに「破離」が求められている。

本田宗一郎の言葉「夢は持っているか。計画は立てているか。試しているか。」

・これからの時代に必要なのは「組織のビジョンや理念を一部の人間で作り社員で共有する」という営みではなく、「知の共有と創造が行われる場を作り、その場を活用する」こと(=知識経営)である。

知識経営とは、つまるところリーダシップの問題である。