2019.8.24「僕は君たちに武器を配りたい」瀧本哲史

瀧本さんの訃報を目にし、ずいぶん前に読み(聞き)終えた本「僕は君たちに武器を配りたい」を再読した。あらためてこの本から学んだことをまとめてみる。

まずは目次から

はじめに
第1章  勉強できてもコモディティ
第2章  「本物の資本主義」が日本にやってきた
第3章  学校では教えてくれない資本主義の現在
第4章  日本人で生き残る4つのタイプと、生き残れない2つのタイプ
第5章  企業の浮沈のカギを握る「マーケター」という働き方
第6章  イノベーター=起業家を目指せ
第7章  本当はクレイジーなリーダーたち
第8章  投資家として生きる本当の意味
第9章  ゲリラ戦のはじまり
本書で手に入れた武器

この本で瀧本さんが伝えたかったことは、大きく二つあると思う。

1 これからの社会は、コモディティ化できない部分で勝負しろ

2 サラリーマンになるな。投資家的生き方をしろ

スペックが明確に定義できるもの(≒個性のないもの)は、すべてコモディティ化してしまう。

そうなれば、単により価格の安い物が選ばれ、買いたたかれてしまう。

瀧本さんはこの本で、今後の日本社会で生き残れる人と生き残れない人のタイプを次のように示している。

■今までは評価されたが、これからの日本では生き残れない2つのタイプ

 ①トレーダー…商品を遠くに運んで売ることが出来る人

 ②エキスパート…自分の専門性を高めて、高いスキルで仕事をする人

■今後も生き残れる4つのタイプ

 ③マーケター…商品に付加価値をつけて、市場に合わせて売ることが出来る人

 ④イノベータ…まったく新しい仕組みをイノベーション出来る人

 ⑤リーダー…自分が起業家となり、みんなをマネージしてリーダーとして行動する人 

 ⑥インベスター(投資家)…投資家として市場に参加している人

③マーケターには、「ストーリーを商品に付加する」ことがが大切

④イノベーターとは、既存のものを今までとは違う組み合わせで提示すること

⑥投資家は、リスクの大きさを見極めつつリスクを取って投資する。市場のトレンドとサイクルを見極めること、が大切

 

・投資家的生き方とは、未来を予測し、その未来に積極的に関わっていくこと

・「投資=お金を投資する」と考えている人が多い。投資とはお金だけでなく、時間、労力、人間関係も投資する、と考える。

・サラリーマン(労働者)として働くのではなく、投資家として働く。言い換えれば、「他人に自分の時間を売ってお金を得る」のではなく、「自分で考え自分で判断してお金を得る」。

リベラルアーツ、つまり本当の教養、自分で考え自分で判断できる能力が基本的に重要である。

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2019.8.18「『24のキーワード』でまるわかり!最速で身につく世界史」角田陽一郎

前回のアップからずいぶんサボってしまった。読み終えて(聞き終えて)から2週間以上たってしまったが、今日は角田陽一郎さんの書かれた「『24のキーワード』でまるわかり!最速で身につく世界史」についてまとめてみた。

まずはいつものように目次から

 

第1講 文明の話

 四大文明はなぜ「乾燥地帯」で生まれたのか?

 20万年前~1万年前/全世界

第2講 水の話

 その地域のルールや文化の特色は、水によって決まる。

 1万年前~紀元前11世紀/四大文明の地域

第3講 宗教の話
 宗教とは、思い込みで生まれるものである。

 紀元前13世紀~7世紀/西アジア、インド

第4講 思想の話
 思想は、気候や環境に思いっきり左右される。

 紀元前7世紀~紀元前4世紀/西アジア、インド、中国(春秋・戦国時代)、ギリシャ

第5講 帝国の話
 人が集まり、国ができ、やがて他国を支配する帝国が生まれる。

 紀元前6世紀~4世紀/ペルシア帝国、ローマ帝国
第6講 商人の話

 実はイスラム教は、合理的で寛容的な宗教である。

 7世紀~13世紀/イスラム帝国

第7講 中華の話

 中国を見ることで、その他の国の見方まで変わってしまう。

 紀元前3世紀~3世紀/秦・漢帝国

第8講 民族の話
 民族や文化の違いで差別する愚かさに気付く話をします。

 4世紀~14世紀/ヨーロッパ

第9講 征服の話
 王朝の誕生と衰退は、芸能アイドルの世代交代と一緒!?

 紀元前2世紀~13世紀/漢・隋・唐・宋、モンゴル

第10講 周縁の話
 周縁で起こったことを知ると、世界史はもっと面白くなる!

 紀元前7世紀~15世紀/インド、ロシア、アフリカ、アメリカ、日本〔ほか〕

第11講 発見の話

 「発見」とは未知が既知になるだけ。でもその威力は偉大である。

 11世紀~16世紀/ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、日本

第12講 芸術と科学の話

 法則がシンプルで美しければ、科学的に正しいとなってしまう!

 14世紀~17世紀/ヨーロッパ

第13講 国家の話

 国の種類はたった二つしかない。

 1万年前~現在/全世界

第14講 約束の話

 「誠実に約束させることが、戦争を生む」という悲劇。

 15世紀、16世紀/ヨーロッパ、アメリ

第15講 理想の話

 ある人にとっての「理想」は、別の人にとっては「脅威」となる。

 17世紀、18世紀/イギリス、アメリ

第16講 革命の話

 ダイエットとリバンドを繰り返す「革命」によって人類は進化する。

 18世紀、19世紀/ヨーロッパ、日本

第17講 産業の話

 技術革新や発明が、生活時間、行動範囲、芸術までも変化させた。

 16世紀~19世紀/ヨーロッパ

第18講 統合の話

 民族の「統合」と、帝国による「分割」が同時進行するという矛盾。

 14世紀~19世紀/ヨーロッパ列強、西アジア、インド、明・清

第19講 分割の話

 植民地とそこへのルートが欲しくて、世界を分割し続けた。

 19世紀、20世紀/全世界

第20講 戦争の話

 戦争を起こさないためには、戦争をよく知る必要がある。

 20世紀/全世界

第21講 イデオロギーの話

 社会主義成功のカギを握るのは、イデオロギーにあらず。

 20世紀/全世界

第22講 お金の話

 お金が、人生の持ち時間、就職先まで決めてしまう。

 20世紀/全世界

第23講 情報の話

 現在は、農業革命、産業革命に続く「情報革命」が進行中である。

 20世紀、21世紀/全世界

第24講 未来の話

 未来を考えると、現代・過去までもより深く理解できる。

 21世紀~/全世界

 

一気に聞き終えたが、特に印象に残った部分を要約して記述する。

・約20万年前に今の人類であるホモ・サピエンスの共通の祖先が東アフリカで誕生した。これはミトコンドリアDNAを辿っていくと「ミトコンドリア・イブ」と呼ばれる一人の女性のDNAに行き着くことで解った事実である。そして約6万年前にそこから世界各地に広がったとされている。

・「人種差別」はあってはならないこと、という常識は、この「人類アフリカ単一起源説」が主流になってからの”常識”である。世界史とは「差別の歴史」であり、同時に「差別との戦いの歴史」でもある。

・グレート・ジャーニーと呼ばれる人類の長い旅、世界史とは人類の「旅の歴史」でもある。

・約1万年前に四代文明(こう呼んでるのは日本だけのようだが...)が乾燥地帯で起こった。エジプト文明メソポタミア文明インダス文明黄河文明の四つ。

・日本でこのような文明が起こらず、縄文時代が紀元前2世紀頃までという比較的新しい時代まで続いたのは、恵まれた環境であったから。「日本は恵まれ過ぎた環境」というのは世界史の中で日本を知る上で重要なポイント。

・なぜこの時期に文明が起こったのか?氷河期が終わった1万年前に農耕と牧畜という「農業革命」が、この乾燥との闘いの中で始まった。

なぜ、この四つの地域で文明が生まれたのか?そこに乾燥に耐える最適な栽培種の野生種が”たまたま”繁殖していたから。それは「ムギ」と「アワ」。そこには人間だけでなく動物も群がってくる。その動物たちを飼い始めたのが”牧畜”の始まりである。

・乾燥地帯にあった四代文明に共通するもうひとつの条件は、すべて大河の流域に存在したという点。エジプト文明ナイル川メソポタミア文明チグリス川とユーフラテス川、インダス文明インダス川黄河文明黄河。人は真水が確保できるところに集まり、農耕し、やがて都市を作る。そして水のない場所に水を供給する「灌漑」や、逆に水がありすぎて起こる洪水から守るために「治水」という大規模な共同作業が必要不可欠となる。そうなれば、それを取り仕切る指導者、つまり王が必要となる。これが文明の始まり。

・戦争とは「水が確保できる場所の争奪戦」であり、政治とは「確保した水を灌漑し治水する施策」である。

・四代文明の特質が源流となって、その後の世界史、ひいては現代までにも繋がる各地域の特徴を形作っている。ところが、インダス文明だけは、今のインド文明に直接つながっていない。つまり現代のインドは、古代と「断絶」されている。

黄河文明で栽培されたアワは地下水で栽培されたため、大規模な灌漑は行われなかった。そのため広い地域で邑(ゆう)と呼ばれる小さな集落が点在し、それぞれの邑に住む部族の祖先が崇拝された。誰よりも自分の祖先が偉い、という価値観が、現在の東アジア地域の集団主義的な特徴を形作っている。その代表が「中華思想」、自らが世界の中心であり、外部は自分達の下に序列する下部集団にすぎない、という考え方。

一神教の代表である、ユダヤ教キリスト教イスラム教は、アラビア半島という厳しい環境の「さばく」の中の都市で形作られた”砂漠の宗教”である。これらの神様は同一であり、神をヤハウェとして崇拝するのがユダヤ教、ゴッドとして崇拝するのがキリスト教アッラーとして崇拝してるのがイスラム教である。つまり、この三つの宗教間の対立とは、信じている神様の違いではなく「神様への崇拝のやり方」をめぐる対立と捉えるべきである。

キリスト教は大きく分けると3つある。まず、11世紀にローマのバチカンを本拠とする西方教会カトリック)と、コンスタンティノーブルを本拠とするギリシャ正教東方教会に分裂した。さらに16世紀にカトリックに反抗するプロテスタントが現れた。神父はカトリック正教会にいるが、プロテスタントにはいない。

イスラム教はスンニ派が主流をなし、全体の9割、シーア派は約1割でほとんどが今のイランにいる。シーア派のイラン人とスンニ派の多いアラブ人の対立が、今でも中東の紛争が絶えない理由のひとつである。

多神教温暖湿潤で多種多様な動植物がいる環境で生まれた「森の宗教」である。多神教では、宗教の指導者や偉い人が亡くなったあと、新しい神様が次々とメンバーに加入する。

・自分の中に神様がいらっしゃるのが一神教、自分の外に神様がいらっしゃるのが多神教。決めてから迷う一神教、決めるまで迷う多神教

・紀元前7世紀から4世紀にかけて、宗教や哲学が一気に生まれる「精神革命」が起こった。これを「枢軸時代」と呼ぶ。

パレスチナユダヤ教

ペルシアでゾロアスター教

インドで仏教やジャイナ教ウパニシャッド哲学

中国で儒教をはじめとした諸子百家

ギリシャギリシャ哲学

ゾロアスター教は、紀元前6世紀頃、ペルシア地方の草原地帯に現れたゾロアスターによって創始された。火を神聖視し、善悪二元論と終末論を教義の核とする。草原地帯で昼と夜が繰り返されることから生まれた考え方。この二元論や終末論である「最後の審判」という思想は、砂漠の宗教ユダヤ教に強い影響を与え、その後のキリスト教イスラム教に通じている。

易姓革命とは「現王朝がふしだらなため、天命を受けた者がそいつを倒して新王朝をたてる」という思想。この考え方は現代にも受け継がれている。「中国四千年の歴史」とは、四千年間同じ思想が続いているという意味で的を射ている。

・日本はもちろん東アジアで2500年以上にわたって大きな影響を与えている思想が、孔子が創設した儒教黄河文明から続く祖先崇拝と家族崇拝を体系化した教えであり、「長幼の序」つまり「年上の方が偉い」いう考え方である。これは孟子などの後継者により、より厳密化・体系化され「論語」をはじめとした「四書五経」にまとめられた。

中華思想は、この儒教が生まれたことでより強固になった。「年少者は年長者を敬い、年長者は年少者を慈しむ」ということになれば、中国が世界の中で一番の年長者ということになる。

・最盛期のアテネ市民は15万人に対し奴隷は10万人いたと言われる。富裕層だけの特異な民主政治が行われていた。生活にゆとりができると人は人生について考え、やがて万物の根源を考える。そこでギリシャ哲学が生まれた。ソクラテスプラトンアリストテレスなどを代表として産み出された哲学は近代社会の様々な思想の基本となる。しかし継続して受け継がれたのではなく、一度世界史から忘れ去られたものを、後のイスラム世界の人々が翻訳・発展させてから再び日の目を見ることになる。それが14世紀にヨーロッパに伝わったのがルネッサンス

ユーラシア大陸の帝国とは、「北の比較的”貧しい遊牧民”が、ウマという交通・通信手段を獲得することで軍事的に優位にたち、南の経済的に”裕福な農耕民”を征服したり、寄生したり、従えたりした国家」ということができる。

・ウマと車の組み合わせは、「大量の荷物」を「高速で移動」できる画期的手段であった。そしてその用途は、運搬、農耕、戦闘と多種多様。

・馬の上から弓を射る「騎射」が圧倒的な軍事力となり、騎馬軍団が登場した。鉄砲が発明されるまで、世界最強の軍団であった。

・世界史史上最初の巨大帝国は、紀元前6世紀にイラン高原から起こったアケメネス朝ペルシア帝国である。その支配はエジプトからインダス川まで及び、人口も5000万人に達した。ギリシャのポリス国家にも攻撃を仕掛けた。

・アケメネス朝ペルシア帝国は、全国を州という行政区に分け州知事を置き、さらにその州知事を監視する「王の目」「王の耳」という監察官を中央から派遣した。さらに「王の道」という国道や駅伝、通貨制度を創設した。

・行政区を整備し、道路や通信手段を作り、共通通貨を制定する、これらの中央集権的政策は、その後の時代でも国民を統治するために使われている制度である。

・このアケメネス朝ペルシア帝国を滅ぼしたのは、紀元前4世紀ギリシャの各ポリスを制圧し、北のマケドニアから誕生したアレクサンドロス大王(英語読みではアレキサンダーアラビア語読みならイスカンダル)。彼は世界制覇の野望に燃えエジプトからインドまでを征服し第帝国を誕生させた。これによりギリシャ文化とオリエント文化を融合したヘレニズム時代が幕を開けることになる。

・イラン人のプライドはペルシア帝国にある。アケメネス朝ペルシア帝国がアレクサンドロス大王に滅ぼされたあとも、紀元前3世紀にはイラン系の騎馬遊牧民がパルティア王国を建国し、400年続く。その後ササン朝ペルシアに代わりさらに400年続く。つまり現在のイランは、このようにかつて巨大な帝国を作ったペルシア人の末裔の国というプライドをもって行動している。

イスラム教内での宗派争いに見える中東の構図も、「プライド高き伝統あるペルシア人」vs「イスラム教の元祖であるアラブ人」という視点を知ることで、新たな一面が見えてくる。

・紀元前1世紀に、地中海に突き出たイタリア半島から巨大な帝国=ローマ帝国が誕生した。東地中海を勢力にしていたヘレニズム文化の体現者クレオパトラプトレマイオス朝を滅ぼし、地中海を統一した世界初の海洋帝国を創設した。

ローマ帝国は「すべての道はローマに通ず」という格言が残るほどの立派な道路を建設した。日本の新幹線の線路の幅(標準軌)は、ローマ時代の馬車の軌道と同じ。

ローマ帝国は2世紀の五賢帝が統治した最盛期までの200年間、域内では平和が続き「パクス・ロマーナ」と呼ばれる平和な時代が続く。

・7世紀にユーラシア大陸西アジアの乾燥地帯で、世界史の一大転機になる事態が起こる。イスラム教の成立である。

イスラム教は、当時極めて合理的で寛容的な最新の宗教であったことが、勢力拡大に有利に働いた。イスラム教は承認から生まれた宗教。

イスラム教の主要な担い手をアラブ人、ペルシア人トルコ人、モンゴル人、インド人等と加えていきながら拡大していった。

今や世界には16億人のイスラム教徒がおり、数十年後にはキリスト教を抜いて世界最大の宗教勢力になる。

・中国は伝説の夏王朝から始まり、殷→周→春秋・戦国時代→秦→漢→三国時代→晋→五胡十六国南北朝時代→隋→唐→五代十国→宋→遼→金→元→明→清 と王朝が何代にも渡って存在する。中国が現在の大きさにざっくり確定したのは、最後に登場した清(17世紀~20世紀)の時代である。

中華思想はコンプレックスの裏返しでもある。漢民族は周辺の野蛮?な民族から常に攻められ時には征服され子分にされ苦渋をなめてきた。そのプライドと劣等感が入り交じった感情が中華思想のもうひとつの真実である。

・北の黄河のアワ文化圏と、南の長江流域のコメ文化圏が一つになり大人口を抱える漢民族の基礎となった。

・「ある王朝の天子がダメな統治を行うと、天が見切りをつけて新たな天子に変わる」という「天命が革まる=革命」という思想が中国にはある。この革命を易姓革命という。徳を失えば、新たな徳を備えた一族が新王朝を立てる(姓が変わる)という考え方。

匈奴とは、紀元前3世紀ごろから中国の北部にいた遊牧民で、彼らは中国の漢に度々侵入し漢民族を脅かす。南北に分裂した匈奴のうち、南匈奴は中華圏に残りましたが北匈奴は忽然と中華圏から消えた。そして4世紀ごろ中央アジアから黒海周辺、さらに東ヨーロッパに現れた。彼らはローマ帝国民から”フン族”と呼ばれた。フン族の痕跡はヨーロッパ各地に残っている。東欧のハンガリー民族「マジャール人」は実はアジア系で、国名のハンガリー(Hungary)はフンが語源という説がある。

フン族が侵入したとすると、もともとそこにいた民族は玉突きで移動せざるを得ません。それがゲルマン人、ゲルマン系の西ゴート族が375年に衰退してきたローマ帝国内に侵入した。続いて次々とゲルマン系の諸族(東ゴート、ヴァンダル、ランゴバルド、フランクなど)が西ヨーロッパ地域に移動し始めた。これが「ゲルマン民族の大移動」。

・そして395年、ローマ帝国は東西に分裂する。ゲルマン人が多数侵入したイタリア半島イベリア半島など西欧地域を含む西ローマ帝国(種とはローマやミラノ)と、ドナウ川の国境でゲルマン人の侵入を比較的免れた東ローマ帝国(種とはコンスタンティノープル)に分かれる。

なお、西ローマ帝国は、5世紀(476年)ゲルマン人傭兵隊長によって滅ぼされる。

ちなみにゲルマン人キリスト教徒だった。ローマ帝国キリスト教を国教に認める前からキリスト教はむしろゲルマン人に広まっていた。

・ゲルマン系の諸部族は4世紀以降ヨーロッパ各地で国を作る。その中でも8世紀に特に力をもったのがフランク王国。同時にこの時代はイスラム勢力の拡大がフランク王国まで迫っていた。そのためキリスト教圏はアルプス以北の中央ヨーロッパに移動せざるを得なくなった。キリスト教カトリックのトップであるローマ教皇は、800年にフランク王国カール大帝シャルルマーニュ)に西ローマ帝国の「皇帝の冠」を与える。476年に滅んだ西ローマ帝国の復活である。これによりローマ教皇ゲルマン人の希望が同時に叶った。教皇はヨーロッパ北部でのカトリックの勢力拡大、ゲルマン人にとっては野蛮人と軽蔑されてきた自分達に正統性を与えてくれた。こうして「宗教面の指導者=教皇」と「政治面の指導者=皇帝」からなる西ヨーロッパ世界の骨組みが出来上がった。

・カリスマであったカール大帝が死ぬと、ゲルマン民族のしきたりにしたがい、国は三分割される。後のフランス、ドイツ、イタリアへとまとまる文化の素地が出来上がる。

10世紀(962年)ドイツ地域である東フランク王国のオットー1世がローマ教皇から戴冠を受け、神聖ローマ帝国の初代皇帝になった。この神聖ローマ帝国はナポレオンに1806年に滅ぼされるまで800年以上続く。

フランス地域(西フランク王国)ではカペー朝が起こりフランス王国になる。

フランスの北岸、ドーバー海峡に面したノルマンディー地方にいたゲルマン系ノルマン人は11世紀にイギリスに渡り、ゲルマン系のアングロ・サクソン人を征服してノルマン朝を開く。イギリス王国の誕生である。

ドイツもイタリアも、国としては19世紀まで存在しなかった。

・中性の時代、世界史の中心は、世界的商業ネットワークを完成させたイスラム帝国と、孤高の中華世界であった。西欧キリスト教世界はイスラム帝国と対峙し、11世紀から13世紀にかけて十字軍を組織して戦いを挑むが失敗を繰り返す。しかしこの失敗は後に多大な恩恵をもたらす。先進地域であったイスラム世界から様々な先進文化が西欧世界に持ち帰られた。

・これ、全部同じ人物。

 チャールズ、シャルル、カール、カルロス

 ピーター、ぺーター、ペテロ、ピョートル

 ジョン、ヨハネ、ジャン、ヨハン、イワン

 マイケル、ミカエル、ミッチェル

 地名も同様、ブランド名に「アルマーニ」というのがあるが、フランス語でドイツのこと、英語だと「ジャーマニー」

・中国では4世紀に入り遊牧民たちが混乱期に乗じて中原に次々と国を起こす。五胡十六国時代の到来である。このころ大乗仏教も五胡の民族に広がり中国に根を下ろす。自分達が漢民族の下位にあることを説く儒教を遠ざけ仏教や道教を発展させた。

五胡十六国のあと、華北を統一したのは鮮卑の王朝、北魏である。この王朝では遊牧民漢化政策漢民族との同化)がとられた。これにより中華文化遊牧民の特徴がミックスされた。華北北魏北朝)と、華南の宋・斉・梁・陳と続く漢民族王朝南朝)が並立する南北朝時代である。なお、この北魏から日本に仏教が伝えられた。

・6世紀、581年に隋が中国を再統一する。そして黄河と長江を結ぶ総延長2500kmの大運河を建設する。これにより南北の経済も統一された。官僚登用試験である科挙を始め、農地を均田制という皇帝の所有に変えた。

・隋は30数年で、その後300年続く唐に変わる。隋も唐も漢民族の王朝だが、それぞれを建国したのは自称漢民族の末裔、その実は鮮卑の出自といわれている。

契丹(きたん)人が作った遼、その後女真族が作った金により圧迫され、ついには臣下になってしまうという屈辱の宋(北宋南宋)の時代に、中華思想は新たな特徴を身に付け後世に大きな負の影響を与えてしまう。それは「文治主義」と「朱子学」。文治主義とは官僚主導の統治方法。朱子学南宋の時代に儒教を再構築して誕生した。これにより中華文明の停滞が起こってしまった。特に朱子学は優越感と劣等感を併せ持っており、物事の本質よりも名や格(大義名分や上下の秩序)が大事という教えであり、過去重視による未来の否定、継続重視による革新の否定に繋がった。この朱子学は江戸時代の日本にも採用され、権威主義や事大主義、社会の硬直化の要因となった。現代の日本や韓国の度を越した学歴主義や偏差値偏重の遠因とも言える。

・13世紀のモンゴル高原に、チンギス・ハンが登場する。彼はモンゴル族を瞬く間に統一すると、中央アジアのホラズム朝や西夏を征服する。子孫たちも続きユーラシア大陸をほとんど支配する。結局地球上の陸地の4文の1を占め、人口1億人という史上類を見ないモンゴル帝国を築く。

第5代ハンであり、チンギス・ハンの孫のフビライ・ハンは中国全土を征服し、1276年南宋を滅ぼし元を起こした。

・この時代に、ユーラシア大陸には「草原の道」、「シルクロード(オアシスの道)」「海の道」が整備され中華圏・イスラム世界・ヨーロッパを結び一大商業ネットワークが形成された。

そして、停滞する中国を尻目に、中国で発明された火薬、羅針盤活版印刷技術がヨーロッパに知れ渡り、その後のヨーロッパの躍進に繋がった。

アメリカ大陸で文明の始まりが遅れた理由。ユーラシア大陸が東西に長い横長の形で、南北アメリカが南北に長い縦長の形だったから。人も動物も、横(東西)移動のほうがやり易い。南北では気候や植生、生態系が変わるが、東西ではほぼ同一の気候条件で移動できる。つまり移動し易い(交流し易い)ユーラシア大陸で文明が発達した。

・国の種類は、「王国」と「共和国」の二つだけ。あとはそれを少し言い換えたり、その応用形立ったりするだけ。会社に例えると、社長を創業者から選んでいるのが「王国」、公募で選んでいるのが「共和国」になる。なお、社会主義の国では、その国の代表は人ではなく会議。ソビエト連邦で一番偉いのは「ソビエト」という名の会議だった。中国では「全国人民代表大会全人代)」で、その会議の中で一番偉いのが国家主席ということ。

宗教改革は、ローマ教皇庁が資金調達のために発行した「免罪符」に反対して起こった。「カトリックは神との約束の間に聖職者が介在しすぎている。我々は神とダイレクトに約束したい。」この思いがプロテスタントを生んだ。そしてこの約束(聖書)を一気に広めたのが新しい技術革新であるグーテンベルグによる活版印刷技術の発明。技術がプロテスタントを生んだとも言える。

・16世紀半ばから、防戦側であるカトリック(旧教)と反抗側であるプロテスタント(新教)の対立が激化し、ヨーロッパ各地で宗教戦争が始まる。フランドル地方は当時スペイン領だったが、フェリペ2世に弾圧された新教徒がオランダ独立戦争を起こした。フランスではユグノー戦争、イギリスではピューリタン革命。最後の宗教戦争となったのは1618年から1648年まで続いた三十年戦争。この戦争は、周辺国家を交えて戦った”最初の国際戦争”でもある。ユグノー戦争を終結させたフランス・ブルボン朝の祖アンリ4世は「ナントの勅令」を出し、新・旧教徒の両方に「信仰の自由」を約束した。三十年戦争終了時には、ヨーロッパのほとんどの大国が参加して「ウェストファリア条約」が結ばれた。これは最初の国際法。スイスの独立も認められた。

現代社会の基本思想はプロテスタントが生み出したもの。勤労、貯蓄、倹約、節制といった真面目な生き方がプロテスタントの神との約束。この聖書に書かれた神様との約束事を誠実に果たすというのがプロテスタントの生き方。この誠実さが、資本主義、民主主義、個人主義の原動力となる。しかし一方で、この誠実さが「自分の誠実さの押し売り合戦」となり、自分達の誠実さ=正義を他者に押し付けることで戦争を生んできたのも事実である。

・植民地に残るヨーロッパ。フィリピンとは「フェリペの領土」という意味。フェリペとはスペイン帝国最盛期の王フェリペ2世のこと。アメリカのルイジアナは「国王ルイの領土」という意味。ちなみにその地の特産ウイスキーをバーボン(bourbon)というのは、ブルボン朝から来ている。また、イギリスのエリザベス1世は生涯未婚だったため処女王と呼ばれた。その彼女にちなみ「ヴァージニア」と命名された。

アメリカはかなり特殊な国家。18世紀(1776年)独立宣言を発し、やがて独立戦争に勝利して誕生したアメリカ合衆国は全く新しいタイプの国家であった。

他の国では、民族固有の共通な歴史物語があり、その国を建国した先祖はその国の英雄であり、その国の歴史はその国のしきたり・文化・伝統である。しきたりや文化はその集団のアイデンティティとなり、そのアイデンティティを共有する者が国の構成員。でもアメリカ建国の基盤は、英雄でも伝統でもなく「理想」である。神の下の平等という考え方に賛同した人たちが造った人口国家なのだ。

WASP(ワスプ)と呼ばれる白人(White)でアングロ=サクソン(Anglo-Saxons)でプロテスタント(Protestant)のための理想の国を誠実に作ろうとした。

・日本の明治維新は、「革命=Revolution」ではなく「改革=Reformation」だった。革命で行われる過去との断絶、旧体制のボスを処刑するという最も革命的な行為が行われなかった。そういう意味で日本では革命が起こったことがない。過去を継承することを第一義と考える国民性が日本人のアイデンティティだから。

産業革命は都市の工場労働者を生んだ。この工場労働者の出現は新たな社会現象を生んだ。それは「子どもの誕生」である。それまでは”小さい大人”しかいなかった。工場で労働するためには知識と技術を学ぶ必要がある。これによって大人になるために年少期に教育をする期間、すなわち子どもが誕生した。こうして学校制度が発展する。併せてこのころから人の生活は、「食べるために働く」から「働くために食べる」へと変化していった。

・世界史とは「戦争の記述」と言い換えることもできる。あらゆる時代にあらゆる地域で戦争が行われてきた。戦争のない状態のほうが珍しい。

既定秩序のガラガラポンを画策したのが世界大戦である。1914年の第1次世界大戦はドイツが英仏主導の世界秩序の反転を目指してチャレンジした。もう一つは、第1次世界大戦に負けたドイツが1939年に再チャレンジし、そのドイツと組んで欧米主導のアジア秩序の反転を目指した日本が1941年からチャレンジした第2次世界大戦。どちらもガラポンを仕掛けた方が負けた。

これまで他人事だった戦争が、「みんなの戦争」=大量動員と大量殺戮が必要な総力戦になった。

皮肉なことかもしれないが、日本では戦争に負け原爆を落とされた1945年から70年以上戦争をしていない。これは極めて異例の状況。

・1989年は世界史的に大転換の年。日本では1月に昭和天皇崩御され、春頃から東欧ビロード革命が始まった。6月には中国で天安門事件が起こり、ソ連ではゴルバチョフ書記長によるペレストロイカ(改革)が進む。そして11月にはベルリンの壁が崩壊して、12月にはマルタで米ソの首脳が会談して冷戦の終結が宣言された。

なお、その200年前の1789年にフランス革命が起こった。

・お金のはなし。お金は、だいたい4500年前に始まったと言われている。人類の文明史を1万年と仮定すると、むしろお金の無かった時代のほうが5500年と長かったことになる。

お金によって人間が手に入れたのは何か?それは時間である。お金で食べ物を買えば、自分で獲物を獲る時間が節約できる。その分自分のために時間を使うことができる。

つまりお金をたくさん持つことは、時間をたくさん所有できることを意味する。人は必ず死ぬ、使える時間は限られる。したがって限られた時間をできるだけ自分のために使いたい、という欲望が起こるのは当然。この根源的な欲求が富を求める欲求の本質である。

・人類の歴史には三つの波がある。第一の波が先史時代の「農業革命」、第二の波が18世紀の「産業革命」、そして第三の波が進行中の「情報革命」 アルビン・トフラー

今後、医学やAIなどの発展に伴い「人体革命」=改造人間、寿命の大幅延伸など、が起こるかもしれない。

 

世界史はおもしろい!

しばらくの間、集中的に世界史の本を読でみる。

2019.7.15「棒を振る人生~指揮者は時間を彫刻する」佐渡裕

いつものように近所の本屋でぶらぶらしているとき、ふと目に入った本、私の大好きな指揮者佐渡裕さんの書かれた本「棒を振る人生~指揮者は時間を彫刻する」。佐渡さんはすでに3冊も本を書かれているらしい、知らなかった。早速読んでみる。

佐渡さんのコンサートは何度も聞きに行っており、あの情熱溢れる指揮と時にはユーモアある話を楽しんでいる。この本もそんな佐渡さんの音楽に対する深い愛情と、様々な経験から感じ取った考察が、テンポのいい言葉で綴られており一気に読み終えた。

特に心に残った言葉を備忘録として記載しておく。

まずは目次。

第一章 楽譜という宇宙

第二章 指揮者の時間

第三章 オーケストラの輝き

第四章 「第九」の風景

第五章 音楽という贈り物

終章 新たな挑戦

・指揮者は何のためにいるのか

 指揮者と聞いて皆が思い浮かべるイメージは、ステージでオーケストラに向かって指揮棒を振っている姿だろう。しかし、指揮者の仕事のほとんどは、指揮台に立つ以前にある。

指揮者と演奏者の共通言語になるのが楽譜。指揮者はオーケストラの中で唯一、音を鳴らさない音楽家だ。

朝比奈隆先生の生涯最後となった演奏会は、2001年10月に上演したチャイコフスキーの「交響曲第五番」。オーケストラは大阪フィルハーモニ交響楽団。先生は93歳で、そのおよそ二ヶ月後の12月29日に亡くなった。このとき最初の一振りのあと先生は譜面台に手をついたまま動けなくなってしまった。しかし、大フィルの演奏は最後まで整然と続いた。そのときの朝比奈先生は、音のシンボルとして圧倒的な存在感でオーケストラの前に立っていた。それは指揮者の究極の姿だった。

武満徹さんの言葉。

ハ長調ほど美しいものはない。ドミソほど美しいものはありません」僕がキョトンとしていると、武満さんはブラームスの「交響曲第一番」の第四楽章の一部を口ずさんだ。ハ長調のシンプルなメロディーだ。

・今日の演奏が、客席にいる少年佐渡裕に誇れる演奏かどうか。それは演奏会の善し悪しを判断するときの、僕の中で決して動かない基準である。

「第九」について

第四楽章は部屋の中を思いきり散らかしたような不協和音で始まる。そして第三楽章までのメロディの断片を繰り返し、回想する。

第一楽章 過酷な試練に立ち向かう強い意思

第二楽章 肉体的快楽

第三楽章 恋愛、隣人愛、人類愛 

けれど、これらだけでは求めていた真の喜びには辿り着けない。そして冒頭に現れた不協和音を否定するようにバリトンソリストが、「おお友よ、このような音でなく、もっと快い、そして喜びに満ちた歌を歌い出そうではないか」と第一声をあげる。

そして「すべての人が兄弟となり、一つになることを歓喜と呼ぼう」という合唱に繋がる。

・人生に自動ドアはない。人生には勇気を振り絞らなければ開かない扉はいっぱいある。そして勇気を出すときの気持ちは、年齢や状況は変わっても実は同じなのだと僕は思う。

・もし神様がいるとしたら、音楽は神様からの贈り物なのだ。「人間は一緒に生きていくことが、本来の姿なんだよ」ということを人間に教えようとして、神様は音楽を作ったのではないかと思う。

バーンスタインの言葉

「ユタカ、ウィーンで友達はいるのか。いないのなら、私のウィーンの大親友を紹介するよ」と言ってくれた。そうして連れて行ってくれたのは、ベートーヴェンの像の前だった。「彼が昔からの大親友、ルートヴィヒだ。おまえも今日からルートヴィヒと呼べばいい」

なぜか心が暖かくなる話。この本を読んで、ますます佐渡さん、そして音楽が好きになった。

 

2019.7.6「『人の上に立つ』ために本当に大切なこと」ジョン・C・マクスウェル

「『人の上に立つ』ために本当に大切なこと」ジョン・C・マクスウェル著を読んでみた。と言ってもAudiobookで聞いたわけだが。

ジョン・C・マクスウェルは、リーダシップ論で有名なベストセラー作家であるが、彼の本は今回初めて読んだ。目から鱗とまではいかないものの、この本で示されているリーダーに必要な21項目については、一つ一つが納得の一冊であった。

まずは、公開されている目次を記す。

1 ──「人格」
 リーダーシップとは、 人びとに自信を与える人格のことである。

 ・妥協とは、築いたものすべてを捨てること
 ・才能は選べないが、人格は自由に選べる
 ・人格が弱ければ、成功した瞬間に失敗する

2 ──「カリスマ性」
 人と接するとき、相手に好かれるようにふるまうのではなく、相手が自分自身を好きになるようにふるまえばよい。

 ・「この人についていきたい」と思わせる力
 ・成功する人は「善なる部分」だけを見ている
 ・「自分のほうがデキる」と思っている人に一流はいない
 ・常に相手を「10点満点の人間」だと思う

3 ──「不屈の精神」
 夢想する者ではなく、実行する者になる。

 ・自分が生きた時代に最善を尽くした人は、永遠に生き続ける
 ・「何かを信じている人」に人はついてくる
 ・「できる」と思ったすべてのことを達成する

4 ──「コミュニケーション能力」
 コミュニケーションの達人は、複雑なことを簡単にする。

 ・「いっしょに仕事をしたい」と思わせる力
 ・すべてのコミュニケーションの目標は「行動」にある
 ・才能があっても、孤立無援では何もできない

5 ──「能力」
 能力は言葉を超える。

 ・「隠された能力」は、ないのと同じ
 ・本当に有能な人は、タイミングを選ばない
 ・自分と仕事の間に距離を置かない

6 ──「勇気」
 勇気は、他のすべての資質を保証する。

 ・勇気とは、「自分が恐れていること」をする力
 ・勇気は確実に伝染する
 ・「自分にはできない」と思うことをする

7 ──「洞察力」
 賢いリーダーは、聞いたことの半分しか信じない。洞察力のあるリーダーは、どちらの半分を信じればいいか知っている。

 ・洞察力は、得意分野でなければ発揮されない
 ・洞察力とは「欠けている部分」を見る能力
 ・洞察力を磨けば、「運」は自分で生み出せる

8 ──「集中力」
 あらゆることを上手にできる人間はいない。不思議なのは、上手にできることが多少はあるという点だ。

 ・一流に「これでよい」と満足する瞬間はない
 ・「70:25:5」の法則を実行する
 ・最高の投資は、得意分野にする

9 ──「与える心」
 名誉とは、その人が「与えたもの」に対する報酬である。

 ・「火を分け与えても、ロウソクは減らない」
 ・真のリーダーは、絶対に見返りを期待しない
 ・自分の死後も残るものにこそ、与える

10 ──「独創性」
 問題を丸く収めようとして、自分の経験と確信を否定してはならない。

 ・自ら事を起こす人だけが成功する
 ・成功したければ、失敗の数を二倍にする
 ・チャンスは「来る」まで待ってはいけない

11 ──「聞くこと」
 ささやき声に耳を傾けていれば、叫び声を聞く必要はない。

 ・相手の心に触れたければ、耳を傾ける
 ・「人の話を聞かない人」にリーダーはいない
 ・相手が話していないことを聞く

12 ──「情熱」
 他人の思惑ではなく、自分の情熱にこそ従わなくてはならない。

 ・うまくできることに集中すれば、突出できる
 ・「情熱のないリーダー」は存在しない
 ・「火を灯してくれる人」と付き合う

13 ──「前向きな姿勢」
 成功者とは、自分に投げつけられたレンガを使って強固な土台を築き上げられる人物のことだ。

 ・失敗とは、成功までの「あと一歩」に気づかないこと
 ・人生の不幸の原因は、弱音に耳を傾けることにある
 ・自分を高めるための「正しい燃料」を選ぶ

14 ──「問題解決力」
 あなたの夢の実現を、何にも決して邪魔させてはいけない。

 ・「文句を言う人」を成功者に変えるたった一つのこと
 ・「問題は必ずある」と想定する
 ・問題に直面したとき、あなたの「器」が明らかになる

15 ──「対人関係能力」
 人びとは、あなたがどれだけ気遣ってくれているかを知るまでは、あなたの知識がどれだけ豊富であろうと意に介しない。

 ・人の弱い部分を見たときほど、優しく接する
 ・本物のリーダーが重視する「人間の六つの共通点」
 ・「壊れた関係」は、そのままにしておかない

16 ──「責任」
 リーダーは何でも手放すことができる。ただし、最終的な責任だけは手放すことができない。

 ・責任をとらずに「人の上に立つ」ことはできない
 ・「八時間を超える労働は、未来への投資である」
 ・自分にできる最高の水準で仕事をする

17 ──「心の安定」
 自分一人ですべてをやろうとしたり、功績がすべて自分にあると主張したりする人間は、すぐれたリーダーになれない。

 ・自分に不安なリーダーに、人はついてこない
 ・「人から認められたい」という気持ちを捨てる
 ・自分のものではない成功こそ、祝福する

18 ──「自己規律」
 最初で最大の勝利は、自分自身を克服することである。

 ・まずは、自分自身のリーダーになる
 ・常に「困難<報酬」になるよう意識を保つ
 ・規律がなければ、「夢をかなえる力」は育たない

19 ──「奉仕の精神」
 自分の地位を愛する以上に、自分についてきてくれる人びとを愛さなければならない。

 ・一流のリーダーは「地位」にこだわらない
 ・前進したければ、人を先に行かせる
 ・「純粋な気持ち」を最後まで失わない

20 ──「学ぶ心」
 大切なのは、何かについて知り尽くした後で、さらに何を学ぶかということだ。

 ・成功を収めた直後こそ、学ばなくてはならない
 ・「成長をやめた日」は、自分の潜在能力を捨てた日
 ・「蒔いている種」をチェックする

21 ──「ビジョン」
 未来は、それが明らかになる前に可能性を見る人のものだ。

 ・見えないものは、手に入れることができない
 ・達成不可能に思えるビジョンは、勝者だけを引きつける
 ・揺るぎないビジョンを教えてくれる四つの声
 ・「エネルギーを与えてくれるもの」を知る

目次と重なる部分もあるが、特に心に残った言葉を記してみた。

・才能は選ぶことができないが、人格は選ぶことができる。

・勇気とは恐怖心を抱かないことではない。勇気とは恐れを乗り越えて前に進むことである。

・勇気は伝染する。勇気ある行動は、他の人々を勇気づける。

・勇気とは行動原理であり、単なる考え方ではない。

・すべてのことを上手にできる人はいない。しかし誰にでも、上手にできることが多少はある。この多少上手にできることに注力しなくてはならない。

・「70:25:5」の法則、私は初めて聞いたが、この法則を実行することが大切。自分の強みに70%新しいことに25%、そして苦手なこと・欠点に5%の労力と時間を費やす。要は自己投資は、自分の得意分野に集中的にするということ。

・組織を成長させたいなら、部下を率いろ。飛躍的に成長させたいならリーダーを率いろ。

・人とうまく付き合うためには、大前提として自分自身とうまく折り合いがついていることが必要である。

・まだ青いうちは成長を続ける。熟したとたんに腐り始める。

 リーダーは成長し続けなければならない。成長しないリーダーはリーダーではない。

2019.6.30「宇宙は本当にひとつなのか-最新宇宙論入門」村山斉

「宇宙は本当にひとつなのか-最新宇宙論入門」村山斉著

この本は数年前に読み、最近あらためてオーディオブックで聞き直した。

村山さんの本は好きでよく読んでいるが、この本も最新の宇宙論が非常にわかりやすく書かれており楽しく読み終えた。

まず、冒頭の次の言葉で興味を引き付けられる。

・星や銀河、それを形作るすべての元素のエネルギーを合わせても、宇宙全体の4.4%しかない。残りの約23%は「暗黒物質」、約73%は「暗黒エネルギー」である。このことがはっきりしてきたのは、2003年以降のこと。

この本を聞きながら、不思議な宇宙について思いを巡らすと、なぜか謙虚な気持ちになる。

いつものように目次を示したうえで、心に残った部分を簡単に要約してみたい。

<目次>

第1章 私たちの知っている宇宙

第2章 宇宙は暗黒物質に満ちている

第3章 宇宙の大規模構造

第4章 暗黒物質の正体を探る

第5章 宇宙の運命

第6章 多次元宇宙

第7章 異次元の存在

第8章 宇宙は本当にひとつなのか

・私たちの地球が存在している天の川銀河の中心にもブラックホールはある。これは太陽の約400万倍の重さを持っている。他の銀河にはもっと重いブラックホールも存在しており、太陽の100億倍もあるものも。。。

暗黒物質がないと、星や銀河ができず、したがって私たちも生まれないことになる。宇宙には1000億個の銀河があるが、それもすべて暗黒物質のお陰で誕生した。

・今から137億年前に宇宙は誕生し、誕生して10の34乗分の1秒後にビッグバンが起こり、3分間にヘリウム等の原子核ができた。さらに宇宙が膨張し38万年後になると光が真っ直ぐ進めるようになった。これが「宇宙の晴れ上がり」と言われる現象。この38万年後の光を私たちは見ることができる。

この光は今では引き伸ばされて電波になっており「宇宙背景放射」と呼ばれる。マイナス270.4℃、絶対温度2.75Kでビッグバンの名残を宇宙全体に残している。

・物質を作っている素粒子のグループは「フェルミオン」、力の働いている物質間でキャッチボールされる素粒子は「ボソン」と呼ばれる。さらに、もう一つのグループがある。それが、すべての素粒子に質量を持たせる役割の「ヒッグス粒子」である。

・ボソンには、電磁気力を伝える「光子」、強い力の「グルーオン」、弱い力の「ウィークボソン」がある。さらに、まだ見つかってはいないが重力を伝える「グラビトン:重力子」が予測されている。

・銀河という構造が宇宙にできたのは、宇宙が約6.5億歳のときからと考えられている。

暗黒物質は異次元からやって来たという説もある。私たちが認識している4次元の世界は、5次元以上の時空に埋め込まれた膜のようなもので、私たちはこの膜の上でしか動けないが、この膜から自由に出入りできる粒子も存在している、という考え方である。たとえばアメリカの物理学者リサ・ランドール博士は「ワープする宇宙」の本のなかで「この4次元の膜が二つ平行に並んでいて、その間に空間がある。この空間は片側が小さくて、もう片側が大きいという不思議な形=ワープしている」と書いている。これは今かなり有力な理論で、まじめに考えられている。

・「宇宙は常に膨張しているが、膨張速度は徐々に遅くなっている」と思われてきたが、超新星爆発の観測からは宇宙の膨張する速度がどんどん速くなっている、という答えが返ってきた。これを説明するためには、引力に対抗して宇宙を広げるように斥力を利かせるものが必要になる。宇宙が大きくなっても薄まらない何かがある。その何かが暗黒エネルギー。そして、なぜかはわからないが、この暗黒エネルギーはエネルギー量が増える。

・多元宇宙という言葉には、大きく分けて二つの意味がある。一つ目は「多次元」の宇宙。次元というのは時間や空間の広がりを表すもので、私たちの目には宇宙空間は3次元に見えている。私たちは上下、左右、前後と三つの方向に動けるので3次元空間と言っているが、実は私たちが気づいていない方向があるかもしれない。つまり、この宇宙空間には3次元以上の次元があるという考えを多次元宇宙という。

・二つ目が「多元宇宙」。多次元宇宙は次元は多くなっても、宇宙の数は一つのままであった。多元宇宙は、「宇宙はたくさんある」という考え方である。私たちが住んでいる宇宙は、たくさんある宇宙の中の一つで、この宇宙には他にもたくさんの宇宙があるかもしれない、という考え方。

・一般には、空間は3次元、時間は1次元であわせて4次元時空と言われている。宇宙は「超ひも理論」によれば10次元と予言されている。つまり10ー4の6次元が私たちの知らない異次元ということになる。

・私たちが3次元空間とは別の方向にある次元に気づかない理由としてもっとも有力なのは、「3次元以外の次元はすごく小さい」というもの。異次元の方向というものが小さくて丸まって曲がった空間であるため、人間は気づかないだけだということだ。

・電磁気力は3次元空間にへばりついていて、重力は異次元にもにじみ出る、という違いを認めると、両者の力の強さの違いが説明できる。

 アインシュタインが言うには、「重力とは空間を曲げるもの」だということ。つまり重力は空間の性質として説明できるので、異次元であろうと空間である限りは、重力の作用で曲がる、と考えられる。重力は特別であって、どの次元でも動くことができるが、電磁気力は3次元の膜にへばりついている、と考えられる。

・多元宇宙の考えは、物理学者エベレットが唱え出した量子力学の「多世界解釈」から、まじめに議論し出した。

量子力学では不確定原理が働くが、エネルギーでも変なことが起こる。波の性質も併せ持つ粒子は、狭いところに押し込められると非常に激しく揺れる。つまりミクロの世界で粒子を短い時間観測すると、とても大きなエネルギーを持っているように見える。これは言い換えると、ほんの少しの時間であれば、他からエネルギーを借りてくるようなことができるということ。この借りてきたエネルギーで粒子や反粒子を作っている。

・真空は空っぽな空間だと思ってしまうが、実は粒子と反粒子はたくさんできたり消えたりしている。粒子や反粒子はエネルギーがないとできない。真空の中ではエネルギーの貸し借りが起こり、たくさんの粒子や反粒子ができては消えてを繰り返している。

超ひも理論を使って宇宙の性質を調べていくと、宇宙が文字通り天文学的な数存在する可能性が出てきた。そこで出てきたのが「人間原理」という考え方。

 この宇宙はうまくできすぎている。宇宙のことを観測するのは人間である。つまり人間が生まれないということは、観測されないので存在しない、もしくは存在しないことと同じこと。たくさん生まれた宇宙のなかで、ごく稀に条件がそろった宇宙に人間が生まれ、そのような特殊な宇宙だけが科学の対象になり、私たちが見ることができる。これが「人間原理」の理論である。

・時間は一次元のときは、前と後ろがはっきりしているので、時間の向きが決められる。しかし二次元になると、前と後ろがわからなくなる。そうすると過去に戻ってしまうということが起こる。過去に戻れる宇宙は、いろいろな問題が起こる。時間が二次元以上の可能性はあるものの、こういう理由からとりあえず時間は一次元としておくというのが、今の物理学の考え方。

 

 

2019.6.29「一流の頭脳」アンダース・ハンセン

「一流の頭脳」アンダース・ハンセン著をオーディオブックで聞いた。2度続けて聞いてみて「なるほど」と思ったところを記してみたい。

まず著者のアンダース・ハンセンは、スウェーデンにあるノーベル賞(生理学・医学賞)を決めている機関でもある「カロリンスカ研究所」で研究し、今は精神科医である。また、2000件以上の医学記事を発表した世界的研究者でもある。

そんな彼が本書で伝えていることは、一言で言えば「脳の力を最大化するためには運動、特に有酸素運動が最も有効である」ということに尽きる。

少し順を追ってポイントを押さえてみる。

いつものように目次から

第1章 自分を変える「ブレイン・シフト」
第2章 脳から「ストレス」を取り払う
第3章 カロリンスカ式「集中力」戦略
第4章 「やる気」の最新科学
第5章 「記憶力」を極限まで高める
第6章 頭のなかから「アイデア」を取り出す
第7章 「学力」を伸ばす
第8章 「健康」な頭脳
第9章 超・一流の頭脳
第10章 「一流の頭脳」マニュアル

・定期的な運動によりストレスを減少させることができる。

ストレスは、ストレス要因が偏桃体に刺激を与え、ストレスホルモンであるコルチゾールを分泌し、結果ストレスが発生する。

運動していると、このコルチゾールの分泌量が少ししか上がらなくなる。つまり体を動かすことでストレスに対する抵抗力が高まる。

・偏桃体が感情のアクセルとすれば、この偏桃体を抑えるブレーキ役は海馬と前頭葉になる。運動はこの海馬と前頭葉を強化する。定期的な運動を長期間続けていれば海馬も前頭葉も物理的に成長さえする。

・人が集中しているときは、ドーパミンが発生している。運動することでドーパミンやアドレナリンが放出され数時間は増加状態を維持する。つまり集中力が運動によって高まる。

・多くの研究によれば、一番効果的な運動はランニングということになるが、もちろんウォーキングにも効果がある。心拍数を一定以上上げる運動であれば効果があるということ。ある論文によると、1日20~30分ウォーキングするだけでうつ病を予防できることがわかった。

・BDNF(brain derived neurotrophic factor:脳由来神経栄養因子)とは、脳が生成するたんぱく質で、脳細胞の新生や記憶力、全般的な健康など、脳の様々な働きを促進する作用がある。

つまりBDNFは、脳細胞が傷ついたり死んだりしないよう保護し、新たに生まれる細胞を助け、初期段階にある細胞の生存や成長を促すという役目も果たしている。

また、細胞間の連携を強化し、記憶力を高める。さらに脳の可塑性を高め、細胞の老化を遅らせるなど、まさに脳の救世主といっていい働きを行う。

・運動はこのBDNFを増やす、もっとも有効な方法である。特に有酸素運動が効果的。

運動ほど脳細胞の新生を促すために有効な方法はない。運動すればBDNFが生成され、そのBDNFが脳細胞の新生を促進する。

・記憶力を最大化するには、運動しながら記憶するのが最も適している。運動と暗記を同時にすれば効果がある理由は明らかになっていないが、ウォーキングや軽いジョギングをしながら暗記すると最も効果的だ。

・創造性を増やすためにも、有効なのはやはり運動である。20~30分のジョギングの効果が大きい。

・20年前までは、脳細胞は新生されることなく死んでいくだけ、と考えられていた。しかし今は、多くの脳細胞は可塑性があり、新生されることがわかってきている。

そしてこの脳細胞の新生を促す最も効果的な方法は、薬でも脳パズルでもなく運動であることは多くの研究によって明らかになっている。

・あらゆる研究が示すものは、「運動すれば脳が活性化され頭が良くなる。認知症にもなりにくい」という結論である。しかも激しく厳しい運動は必要ない。定期的な有酸素運動、つまり週2回以上の30~45分程度のジョギングやウォーキングで十分に効果がある、ということ。できれば心拍数をあげるランニングが好ましいということではあるが。

・著者も言っているが、もしこれが「新薬発見」による効果であれば、世界中で大騒ぎになるだろう。しかし、運動という「誰でも簡単に出来、お金もかからない手段」によって効果が得られるが故に、誰も凄いことと思わないしマスコミも注目しない。言い換えると「運動」では商売にならないのである。

したがって、今日も多額の研究費が、認知症予防などの新薬開発につぎ込まれている。

2019.6.15「わかりあえないことから~コミュニケーション能力とは何か」平田オリザ

この本「わかりあえないことから~コミュニケーション能力とは何か」も、最初にAudiobookで聞いた後、紙の本も購入し読み直した。平田オリザさんが書かれた本は、これが初めて。対話と会話の違い、話し言葉における冗長性の位置づけなど、「なるほど」と新たな気付きを得ることのできた本である。

~目次~

第1章 コミュニケーション能力とは何か?

第2章 喋らないという表現

第3章 ランダムをプログラミングする

第4章 冗長率を操作する

第5章 「対話」の言葉を作る

第6章 コンテクストの「ずれ」

第7章 コミュニケーションデザインという視点

第8章 協調性から社交性へ

 

この本ではまず、現在の日本企業が求めるコミュニケーション能力が、完全にダブルバインドになっていることを指摘している。

ダブルバインドとは、二つの矛盾したコマンド(特に否定的なコマンド)が強制されている状態をいう。

たとえば企業は表向きには「異文化理解能力」を求めている。これは、異なった文化、価値観を持った人に対しても、その背景を理解し、きちんと自分の主張を伝えることができる能力。さらに時間をかけて妥協点を見いだすことができる能力ということ、素晴らしい能力である。

ところが一方で、無意識のうちに日本的な能力を同時に求めている。「上司の意図を察知して機微に動く」あるいは「会議の空気を読んで反対意見は言わない」など、一言で言えば聖徳太子の時代から大切にされてきた価値感「和」を大事にし乱さない、ということか。

つまり私たちの暮らす日本社会は、「異文化理解能力」と従来からの「同調圧力」のダブルバインドにあっている。

この理解がコミュニケーションを考えるうえで、もっとも大切な前提となるだろう。

ここからは、本を読んでいくなかで特に心に響いたポイントを簡単にまとめてみる。

 

話し言葉は、無意識に垂れ流されていく。これをどこかでせき止めて意識化させる。できることなら文字化させる。これが話し言葉の教育。

・人間は何かの行為をするとき、必ず無駄な動きが入る。認知心理学の世界では、マイクロスリップと呼ぶ。

うまい俳優と下手な俳優の違いの要素の一つとして、この無駄な動きの挿入度合い(量とタイミング)がある。

・「ある台詞を言うときにはグラスを見る」というように、私たちの脳はインプットとアウトプットを関連付けて記憶している。長期的な安定した記憶は、複雑な印象の絡み合いから起こる。

・いま大事なことは、「たくさん覚える」「早く覚える」から「よく覚える」という教育への転換である。

・強弱アクセントによって感情を表現するという歪んだ演技方が、日本における近代演劇の成立以来、ずっと長く流布してきた。「芝居がかった」「芝居臭い」という感覚は、実はここに由来する。

・日本語の最大の特徴は、語順が自由だということにある。

・私たちは、どんなときに間投詞、「ああ」「ええ」「まあ」をよく使うのだろうか?

・「対話」と「会話」を区別する、これが大事。

対話とは「ダイアログ」、会話とは「カンバセーション」、英語では異なる概念であるが、日本語ではこの区別が極めて曖昧となっている。ここであえて二つの言葉を定義し直すなら

「会話」=価値観や生活習慣なども近い親しいもの同士のおしゃべり

「対話」=あまり親しくない人同士の価値観や情報の交換。あるいは、親しい人同士でも価値観が異なるときに起こるその摺あわせなど

・日本社会独特のコミュニケーション文化=「わかりあう文化」「察しあう文化」、そしてこの背景のもと「温室のようなコミュニケーション」が存在する。

これと対照的に、ヨーロッパを中心としたグローバルな世界では、「説明しあう文化が形成されてきた。

・コミュニケーションのダブルバインドを乗り越えるということはむなしさに耐える、ということ。

・「対話」と「対論」の違いは何か?

対論=「ディベート」はAとBという二つの論理が戦って、Aが勝てばBはAに従わなければならない。Bは意見を変えなければならないが、勝った方のAは変わらない。

一方、対話はAとBという異なる二つの論理が摺合わさり、Cという新しい概念を産み出す。AもBも両者が変わるのだという前提に話を始める。

・話し合い、二人で結論を出すことが、何よりも重要なプロセスである。

・日本では説明しなくてもわかってもらえる事柄を、その虚しさに耐えて説明する能力が要求される。この能力を「対話の基礎体力」と呼んでいる。

・「冗長率」とは、一つの段落、一つの文章に、どれくらい意味伝達とは関係のない無駄な言葉が含まれているかを、数値で表したもの。

・人は、「会話」においては、間投詞を多用しない。それが「対話」になると間投詞が多用される。つまり「対話」においては冗長率が増す。

・私たちが「あの人は話がうまいな」「あの人の話は説得力があるな」と感じるのは、冗長率を時と場合によって操作している人である。冗長率を操作できる人が、コミュニケーション能力が高いとされるのである。

参考:「くりかえしの文法」(大修館書店)プリンスト大学東洋学科教授 牧野成一

・多くの途上国では今も高等教育の授業は、英語か、あるいは旧宗主国の言語で行われている。こういった環境では、なかなか民主主義は育たない。言語の取得が、社会的な階層をそのまま決定づけてしまうため。

論理的な事柄を自国語で話せるようにするのには、ある種の知的操作や、それを支える語彙が必要で、自然言語のままできるものではない。

・日本語には対等な関係で褒める語彙が極端に少ない。上に向かって尊敬の念を示すか、下に向かって「褒めてつかわす」ような言葉は豊富にあるが、対等な関係の言葉が見つからない。そして今、「対等な関係における褒め言葉」という日本語の欠落を「かわいい」は、一手に引き受けて補っている。

・関係がなければ言葉は生まれない。

・日本語は、もっとも性差(男女間)の激しい言葉の一つである。このことが、無意識のレベルで女性の社会進出を阻んでいる。

・言葉の観点から言えば、「対話」の欠如がファシズムを招いたと言える。後発の近代国家であった日本、ドイツ、イタリアは、合理的にエッセンスだけを模倣しようとする。そこでは無駄は排除されスピードが求められる。

したがって、冗長性が高く面倒で時間のかかる「対話」は当然のように置き去りにされた。

そして日本では、まだ「対話」の言葉を確立していない。

・日本人の奥ゆかしく美しいコミュニケーションは、国際社会においては少数派であるという認識が必要である。

欧米では、自分の芸術について語れなければ無能扱いされる。翻って日本では、芸術家が自作を語ったり、説明するのは野暮なこととされる。

欧米のコミュニケーションが、取り立てて優れている訳ではない。しかし多数派は向こうである。多数派の理屈を学んで損はない。

・マナーと人格は関係ない。多少の相関はあるだろうが、性格は悪くてもナイフとフォークの使い方だけはうまい奴はざらにいる。コミュニケーション教育は人格教育ではない。

話し言葉の個性の総称を、「コンテクスト」と呼ぶ。コンテクスト=context は、本来”文脈”という意味だが、「その人がどんなつもりでその言葉を使っているのか」の全体像と少し広く捉えると分かりやすい。

まったく文化的な背景が異なるコンテクストの「違い」より、その差異が見えにくいコンテクストの「ずれ」の方がコミュニケーション不全の原因になりやすい。私たちは「ずれ」には気づきにくい。

・近代科学は、「How」「What」には、結構答えられるのだけれど、「Why」については、ほとんど答えられない。

・リーダーシップとは、人を説得できる、人々を力強く引っ張っていく能力を指す。しかし、これからの時代に必要なもう一つのリーダーシップは、弱者のコンテクストを理解する能力であろう。

・様々な問題を個人に求めるのではなく、関係や場の問題として捉える。

・原因と結果を一直線に結びつけない考え方を一般に「複雑系」と呼ぶ。

・「シンパシーからエンパシーへ」つまり「同情から共感へ」「同一性から共有性へ」

・日本人に求められているコミュニケーション能力が変わってきた。今までは、空気を読む能力、「こころを一つに」「一致団結」といった「価値観を一つにする方向のコミュニケーション能力」が求められてきた。

これからの新しい時代には、「バラバラな人間が、価値観はバラバラなままで、どうにかうまくやっていく能力」が求められる。いわば「協調性から社交性」である。

・心からわかりあえることを前提、最終目標としてコミュニケーションを考えるのではなく、「人間はわかりあえない。でもわかりあえない人間同士が、そうにかして共有できる部分を見つけて、それを広げていくことならできるかもしれない」と考える。

フィンランド・メソッドに象徴されるヨーロッパの国語教育の主流は、インプット=感じ方は、人ぞれぞれでいいというもの。逆にアウトプットは、一定時間内に何らかのものを出しなさい、というのがフィンランド・メソッドの根底にある思想である。

いい意見を言った子供よりも、様々な意見をうまくまとめられた子供が褒められる。

もっとも重視されるのは、集団における「合意形成能力」あるいはそれ以前の「人間関係形成能力」である。

・大人は、様々な役柄を演じ分けながら生きている。私たちは多様な社会的役割を演じながら、かろうじて人生の時間を前に進めている。

本当の自分などというものはない。私たちは、社会における様々な役割を演じ、その演じている役割の総体が自己を形成している。

この演じるべき役割を「ペルソナ」と呼ぶ。この単語には「仮面」という意味と、personの語源となった「人格」という意味が含まれている。仮面の総体が人格を形成する。

人間のみが、社会的な役割を演じ分けられる。私たちは演じるサルなのである。

・かつて自動炊飯器が日本の家庭に普及したとき、日本の主婦の睡眠時間が1時間延びた。冷蔵庫が普及すれば、日本の家庭から食中毒が一掃された。洗濯機がお母さんの手からあかぎれを無くした。