2019.4.14「人生を面白くする本物の教養」出口治明

今週読み終えた本は「人生を面白くする本物の教養」出口治明著。

出口さんの本は面白くてためになる、ということで今回も以前から気になっていた1冊を読んでみた。

まずは目次

第1章 教養とは何か?
第2章 日本のリーダー層は勉強が足りない
第3章 出口流・知的生産の方法
第4章 本を読む
第5章 人に会う
第6章 旅に出る
第7章 教養としての時事問題―国内編
第8章 教養としての時事問題―世界のなかの日本編
第9章 英語はあなたの人生を変える
第10章 自分の頭で考える生き方

冒頭にシャネルの創業者ココ・シャネルの言葉が紹介されてる。「私のような大学も出ていない年老いた女でも、道端に咲いている花の名前を一日に一つくらいは覚えることができる。一つ名前を知れば世界の謎が一つ解けたことになる。その分だけ人生と世界は単純になっていく。だからこそ人生は楽しく、生きることは素晴らしい。」これが教養を身につける目的であり、「教養とは生き方そのもの」ということだろう。

以下、心に残る言葉を記す。

第1章 教養とは何か

・「より面白い人生、より楽しい人生を送って、悔いなく生涯を終えるためのツール」それが教養の本質である。

・「知ること」には「嫌いなものを減らす」効果もある。先入観による嫌悪感を減らすことができる。

・教養の本質のもう一つは、「自分の頭で考える」ことにある。知識に加えて、それを素材にして「自分の頭で考える」ことが教養である。

・結論を急いで「分かった」と思おうとするのも間違いのもと。整えられた「答え」で済ませてしまうのは、その方が楽だから。スッキリしているのは多くの情報が削ぎ落とされ形が整えられているからである。しかし多くの場合、削ぎ落とされた部分が肝だったり、形を整える際に、道理ではなく無理が入り込んでいる。

・人間が意欲的、主体的に行動するためには「腑に落ちている」ことが必須である。

・「人間社会とはいびつな欠片が集まって一つの安定状態を形成するもの」。大事なのは「いびつな欠片」を指摘することではなく、全体としての「安定な状態」を把握することである。

 

第2章 日本のリーダー層は勉強が足りない

・「無知の知古代ギリシャの哲学者ソクラテスが唱えた。私たちはまだまだ知らないことが多い、という自己認識から始めることが大切である。

・グローバルビジネスの現場で重視されているのは「Win・Winの関係」よりも「人間力」である。この人は「面白そうだ」と思ってもらえるかどうか、がポイントとなる。

・面白さの源は、「ボキャブラリー」の豊富さ、言い換えれば「引き出しの数」の多さ。話題が豊富で様々なテーマで会話できる力。

・西洋にはギリシア・ローマの時代以来、リベラルアーツという概念がある。一人前の人間であれば備えておくべき教養のことであり、次の七分野からなる。

算術、幾何、天文学、音楽、文法学、修辞学、論理学

・広く深い知識を持っていても、それだけではダメ。決定的に重要なのは「自分の意見」を持っていること。

・オックスフォード大学の学長の言葉「インドを失った連合王国(イギリス)は今後大きく成長できない国家、いわば没落が運命づけられている国家です。未来のリーダーたちに連合王国の現実を過不足なくしっかり理解してもらいたいのです。そして没落を止めることはできないまでも、そのスピードを緩めることが、いかにチャレンジングで難しい仕事であるかを理解し納得してもらいたいと考えています。」この見事なまでのリアリズムに脱帽。

そしてオックスフォードで最も優秀な学生は外交官を目指し、次に優秀な学生は次の世代を育てる教師を目指す。

・戦後の日本社会は、冷戦構造という大枠の中で、「キャッチアップモデル」「人口増加」「高度成長」という3つのキーワードで説明できる。

・今の日本に定着している労働慣行「青田買いから始まって、終身雇用、年功序列、定年」はすべてワンセットの特異な労働慣行である。

・閉じた世界の中では、何よりも企業に対するロイヤリティ(忠誠心)が高く評価される風土が出来上がる。年功序列は、成果をある程度無視することから、これに拍車をかける。忠誠心を測るのは労働時間、こうして長時間労働という悪しき慣行が蔓延った。

・戦後の日本がいかに特異な社会であったか。このような夢のような社会は、世界史をのどこを振り返ってもほとんど存在しない。

 半世紀以上も戦争がない

 高度成長(平均実質成長率約7%)が40年近く続き

 人口も増え続け

 平均寿命(男性)も50歳そこそこから80歳にまで延びた

・農産物の輸出国第1位はアメリカ。では第2位はというと、ほとんどの人は知らないがネーデルランド(オランダ)である。九州くらいの面積しかない小さな国。ところが農産物の輸出額は9〜10兆円もある。日本の農業にも大きな可能性があることがわかる。

・日本が狭い国だと思っている人はかなり勉強不足。日本の領海の面積は世界第6位。先程の農業に加え海洋資源も日本の大きな余力である。

 

第3章 知的生産の方法

・教養には「知識がある」だけでは不十分で、それに加えて「自分の頭で考える」ことが不可欠である。

・「今さらもう遅い」は単なる言い訳。今が一番若い。過去を変えることはできない。変えられるのは未来のことだけ。

・物事を考えるコツはいくつかある。第1に「タテ」と「ヨコ」で考えること。「タテ」は時間軸であり歴史軸、「ヨコ」は空間軸であり世界軸である。つまり時間軸と空間軸という二つの視点を交えて、二次元で考えるということ。

・第2は、「国語でなく算数で考える」こと。要するに定性的な発想だけでなく、定量的に考えるということである。物事を考える際には、理屈だけでなく常に数字(データ)を参照して考えることが大事である。

これは言い換えると「数字・ファクト・ロジック」の3要素で考えるということ。

・物事の本質は、たいていシンプルなロジックで捉えことができる。人間は本来シンプルな生き物だからだ。逆に言うとシンプルなロジックで理解できないものは、本質を捉えていない可能性がある。そもそも人間はそんなに賢い動物ではない。むしろ単純な動物。そうした人間が作っている社会も、その本質は単純であるはず。であれば人間社会の本質は誰でもシンプルに説明できるはずである。

・偽物を見抜く力も教養の一つ。

・物事の本質をシンプルに捉えるに当たっては、「なにかに例えて考える」つまりアナロジーが有効な場合が多い。一見複雑に見えるものでも、他のものに例えて抽象化すれば、本質を捉えやすくなる。これも「自分の頭で考える」コツの一つ。

・市民の一人一人が社会常識を疑うことによって、社会は健全に発展し、自浄作用が機能する。それが近代国家におけるリテラシーと言われるもの。リテラシーは教養そのものといっても過言ではない。

・機密情報より、物を言うのはのは「考える力」。考える力があれば、普通に入手できる情報であっても、それらを分析するだけで、それまで見えていなかった世界が見えてくる。それが教養の力であり、知の力である。

・とにかく大量の情報に接すると、自ずとその分野に対して造詣が深くなる。

・自分の行動をルール化して判断を省力化する。その都度判断・意思決定するのは大変なこと、あらかじめ基準やルールを決めておき機械的に行動する、言い換えれば習慣化しておく。

 

第4章 本を読む

・教養を培ってくれたのは「本・人・旅」の三つ。本から50%、人から25%、旅から25%

・私の価値観では「面白いかどうか」が常に一番上にある。

・ゴルフとテレビを捨てて、本を読む時間を確保。同感!

・5~10ページ読んで面白いと思ったら最後まで読み、そうでなければその時点で止めてしまう。読んでいて分からないところが出てきたら、腑に落ちるまで何度も同じところを読み返す。著者の主張をしっかりと理解できなければ読書の意義も半減してしまう。

・速読は百害あって一利なし。本の内容が自分の中に血肉化されなければ読書の意味がない。本を読むのにかかる時間は、その人の知識量で決まってくるものであり、単純に目で文字を追う速度とは関係ない。

・最初の1冊目は「点の理解」にとどまる。2冊目を読むと「線の理解」が浮かんでくる。さらに5冊くらい読むと、その分野の全体像が見えてきて、一気に「面の理解」に広がる。1ヶ月くらい時間をかけて10冊くらい読むと、その分野の専門家と話しても内容がわかり、会話が楽しくなってくる。こうして新しい分野を開拓する。

新聞の書評欄は新聞の中で、最もクオリティの高いページである。書評はそれぞれの分野の専門家が署名入りで書いている。バカなことは書けない、笑われてしまう。

アレクサンドロスアラビア語に直せば「イスカンダル」になる。宇宙戦艦ヤマトが目指した宇宙の彼方の国。

 

第5章 人に会う

・本も旅も人。本を読むことは、著者と対話すること、旅は異なる場所に住む人を知ること。

古典を読めば過去の賢人と対話ができる、つまり本はどちらかといえば時間軸。旅は離れた場所に行くことだから空間軸。「タテ」と「ヨコ」の思考法で行けば、本はタテ、旅はヨコになる。

・私たち日本人は、「客」という立場、「接客スタッフ」という立場に過剰適応しているのではないか。立場や役割ではなく、所詮人間は人間という意識を持つべき。

・責務は最小限、面白いことは最大限にしたい。「責務はミニマム、面白いことはマキシマム」が人生の理想。

・人間は本来、次の世代のために生きている動物。子供を育て上げたら前の世代はいつ死んでもいい。人間が老人になっても生きているのは、人生で学んだ様々なことを次の世代に語り伝えることによって、次の世代をより生きやすくするためである。

・北京在住のライター、多田麻美さんの言葉。

「政治体制が違っていても、人の暮らしに必要なものは変わらない。暖かい家と食事、そして心を許せる友だち」

 

第6章 旅に出る

・中国の書店で一番目立つところにおいてある本は、大体が「お金儲けの本」か「歴史の本」。毛沢東の本は、埃をかぶっており、ほとんど買い手がいないことがよく分かる。

・人生の楽しみは喜怒哀楽の総量(絶対値)にある。

 

第7章 教養としての時事問題(国内)

・教育とは本来、人間が生きていく上に必要な武器を与えるもの。一つは「考える力」、もう一つは「生きた実践的な知識」

・現代の選挙システムでは、白票や棄権は有力候補に投票するのと全く同じ結果をもたらす。

チャーチルの言葉「選挙とは、ろくでもない人の中から、現時点で税金を上手に分配できそうな少しでも”ましな人”を選び続ける忍耐そのものを言うのである」「だから民主主義は最低の仕組みである。ただし、王政や貴族政、皇帝政など人類のこれまでの政体を除いては」

つまり政治家に立派な人格を期待してはいけないし、安易に政府や政治家を信頼してはならない、とチャーチルは言っている。

しかし一方で、政治家も政府も市民から離れ敵対して存在しているのではなく、私たち市民が自ら作っていくものである。

・収入は「現金・投資・預金」の3箇所に分けて所有する。これを「財産三分法」という。

公的年金は破綻するか?

結論を言うと、政府が破綻しない限り、公的年金も破綻しない。国債を発行できる限り、公的年金の破綻はありえない。言い換えると公的年金が破綻するのは、国債が発行できなくなる時、ということ。

(日本の税収は約55兆円、それに対して歳出は約96兆円。なぜこれが可能か?国債を発行しているから)

・私たちは金融機関を信用し、金融機関は国を信用するという、信用の入れ子構造の中で生きている。したがって近代国家において最も信用できる金融機関は、最終的には国ということになる。その結果、近代国家では国の格付け以上の格付けを、その国の金融機関は得ることができない。近代国家では、国以上に安全な金融機関は存在し得ない。

・日本の年金問題の根っこは、「小負担・中給付」にある。日本の負担(税+社会保険料)はOECDの平均以下であり、社会保障給付はOECDの平均以上。「負担=給付」でないこのモデルが中長期的に維持できないことは、簡単な算数で明らか。では何故このモデルを採用したのか?それは高度成長で将来の税収が自然に増加すると考えたから。皆保険・皆年金という現行の社会保障制度の骨格が完成したのは1961年のことである。この時代は働く人11人で一人の高齢者を養っていた。また当時の男性の平均寿命は65歳前後。つまり年金をもらっていた期間は約5年であった。しかし現在ではサッカーチームから騎馬戦、さらには肩車になり、高齢者を支える期間も5年から20年に延びた。

・「小負担・中給付」のモデルは成立しない。私たちの選択肢は2つ。

(1)「中給付」を据え置いて、負担を「小」から「中」に増やし、「中負担・中給付」にシフトする。

(2)負担も給付も増やして「大負担・大給付」に移行する。

公的年金問題の本質は以上につきる。世代間の不公平とか、積立方式が好ましいとか言う議論は枝葉末節に過ぎない。

 

・世代間の不公平

「現在の高齢者は支払った社会保険料の4倍程度受給しているが、若者は将来2倍程度しかもらえない、これは不公平ではないか」と言って糾弾する人は、一見正義の味方を装っているが、どうすれば不公平をなくせるかは提案しない。

この世代間の不公平を声高に叫んでいる人たちは、少子高齢化という我が国の人口統計学的な変化を、口当たりのいい世代間の不公平という言葉に置き換えてアジテーションしているに過ぎない。

不公平をなくす方法は原則として二つしかない。

(1)増税して将来の若者の公的年金を増やす

(2)高齢者の平均寿命を65歳に戻して勤労人口を大幅に増やす(つまり大量の移民を受け入れる)

このどちらか。この提言と整合性を持った批判でなければ、聞く価値がない。

・世界的に見れば、世代間の不公平については、人口統計学的な変化以上の不公平は調整すべきだが、人口統計学的な変化に基づく不公平は甘受するというのが大勢。

公的年金の問題は、社会保障全てに共通する。解決方法は次の3つしかない。

(1)負担を上げる(そうすれば給付も増える)

(2)分配が上手なもっといい政府を作る

(3)生産性を上げて(みんなでよく働いて)経済成長する(そうすれば増収になって給付に回せる)

公的年金問題で一番大事な課題は、厚生年金・健康保険の適用拡大の問題。現行制度では、原則週30時間以上の労働が

厚生年金の適用条件となっている。これを一定の収入があるすべての被用者に適用拡大すれば、わが国の公的年金の財政が改善・安定に向かう。これはドイツがシュレーダー改革で採用した考え方。

社会保障と税金について考える。社会保障という給付は全市民が対象である。一方、所得税は働いている人だけが対象、消費税は全市民が負担する税金である。働く人が多かった時代には所得税だけで成立しても、働く人が少なくなった現在では、所得税だけではやりくりできなくなってきた。高齢者も含めて全員で負担するで初めて成り立つ。

・マクロ経済的には国民所得は国民消費に等しい。これを前提にサッチャーは次のように述べた。「我々が汗水たらして働いた結果得られる所得に課税するのは勤労を罰することになる。それよりも個人が選択的に消費をする際に課税するほうがずっと公平である。」

少子化問題こそ日本が抱える根元的、本質的課題である。課題解決の大前提として「子供は社会の宝である」という動物である人間として当たり前の基本認識が、社会の隅々まで徹底することが必要。

・人間は次の世代のために生きている。洋の東西を問わず沈む船から救命ボートに乗り移るときは、子供、女性、男性、老人(高齢者)の順である。子供が最優先で高齢者が最後。それが生命の厳然たる順列である。

・フランスの「シラク三原則」

 フランスの文化や伝統を守るためには、フランス語を母語(マザータング)とする人工を増やさなければならない(文化とはは言語である)という考えのもと

[第Ⅰ原則]赤ちゃんを生んでも経済的に困らない措置をとる(子供が増える度に、手厚い給付を受けられる。経済的解離を社会で埋める)

[第2原則]子供を作った働く女性が困らない環境を整える(最初の1年間の育児休職中はほぼ100%の給与を保証する。つまりコストのかかる0歳児保育は極力親に任せるという考え方)

[第3原則]子育てで最長3年間休職しても、継続して勤務していたものと見なし、元の役職に戻れる。(人事評価も変化しない)

・フランスは子育て支援GDPの約3%を投資している。さらに、法律婚であろうと事実婚であろうと、あるいはシングルであろうと生まれた子供は社会の宝であって、一切差別をしないという大原則が貫かれている。

夫婦別姓いついて

 持統天皇の時代に日本という国号がほぼ確定したので、日本には1,300年以上の歴史がある。1,300年の歴史のなかで夫婦同姓が実施されたのは明治31年(1898年)に民法が成立して以来、わずか120年。あとの期間は、平安時代の妻問婚(別姓)が代表的だが、夫婦同姓ではなかった。

・高齢化対策は「年齢フリー原則」がキモ

「平均寿命ー健康寿命=介護」であることから、超高齢化社会対策の基軸は健康寿命を延ばすことにある。健康寿命を伸ばすベストの方法は「働くこと」、であるとすれば真っ先にすることは定年制の廃止。定年制を廃止すれば、年功序列型賃金はたちどころに同一労働同一賃金に移行し、労働流動化も実現する。そうすれば公的年金の支給年齢を70歳に上げても問題は生じないだろう。

・既に日本には800万戸以上の空き家がある。不動産が資産形成に役立ったのは、人口増加と高度成長が前提であった。

・社会問題や時事問題の本質を捉えるために必要な二つの着眼点。

(1)「動機」、原因といってもよい。この問題は何が動機で起こっているのか、そのメカニズムを見極めることが肝要

(2)「本音」と「建前」を見分けること。現代社会では、何事にも大義名分が必要であり、表に出てくるのは建前ばかり。しかし、建前の裏には必ず本音が潜んでいる

 

第8章 教養としての時事問題(世界の中の日本編)

・どんな事例であれ、すべて100%メリットという話はない。必ずメリットとデメリットが混在している。

・ヨーロッパでは「固有の領土」という概念は存在しない。領土問題についての人間の知恵は、つまるところ「かつては戦争して取り合っていたけれども、今はできるだけ戦争をしないようにしている」という一点に集約される。国境紛争は話し合いで解決するのが基本的プロとコールであり、互いの主張がどうしても噛み合わない場合は、当面実効支配を是認しようというのが暗黙の了解である。知恵が出るまで時間をかけて待つというスタンス。

・「ナショナリズムとは、劣等感と不義を結んだ愛国心である」歴史学者ルカーチの言葉。

・抽象的な観念として思い描かれる中国と、個別具体的な中国人の間には大きなギャップがある。

・エネルギー問題は日本のアキレス腱。石炭を掘るのは非常に危険な作業で、今でも年間数百人が命を落としている。原発事故よりを多くの人が継続的に犠牲になっている。

地球温暖化は、人類が直面している諸課題の中でも「幹中の幹」である。

 

第9章 英語はあなたの人生を変える

・事実上、英語が世界共通語(リンガ・フランカ)になっている。もはや英語は避けて通れない。

 

第10章 自分の頭で考える生き方

・1年は何時間あるか?24×365=8,760時間である。そのうち仕事をしているのは、残業を入れても2,000時間程度。私たちが仕事に費やしている時間は、8,760分の2,000であるから2割ちょっとしかない。

2〜3割の仕事の時間は、7〜8割の時間を確保するための手段である。人生にとって重要なのは2〜3割の仕事(ワーク)ではなく、7〜8割の生活(ライフ)に決まっている。

・私たちは「職場の一員」である前に「社会の一員」である。職場に過剰適応してはならない。

・職場内での序列が人間のランキングだと勘違いしている人がいる。企業の役職は、それぞれの役割を示しているに過ぎない。企業のトップは「機能」、社長や会長になったからといって、別にその人の人格が向上したとか人間的価値が増大したわけではない。出世とは、極論すれば、単に「機能」が変わっただけ。

・自分のやりたいことは、人生のステージによって様々に変わるし、変わってもいい。

・相性は現実の職場では、極めて重要である。

・人間が物事を考えるときの言語は「マザータング」(母語)である。日本語の文章をちゃんと書けることは、物事を考えるための最低条件である。

・少数精鋭とは、「精鋭を少数集める」のではなく「少数だから精鋭になる」

・情報を共有する会議は30分、何かを決める会議は1時間が基本。

・会議室を少なくすれば、会議が良くなる。

・本当に大事だと思っている部署には、自然に足が向く。

 

2019.4.7「知的戦闘力を高める独学の技法」山口周

今週読み終えた本「知的戦闘力を高める独学の技法」、著者は山口周さん、MBAを取得せずに独学で外資コンサルタントになった方らしい。この本から学ぶ点は多く独学に対する考え方も大きく変わったので、少し丁寧に概要をまとめてみたい。

まずは目次を示す。

序章 知的戦闘力をどう上げるか? …知的生産を最大化する独学のメカニズム

第1章 戦う武器をどう集めるか? …限られた時間で自分の価値を高める“戦略”

第2章 生産性の高いインプットの技法 …ゴミを食べずにアウトプットを極大化する“インプット”

第3章 知識を使える武器に変える …本質を掴み生きた知恵に変換する“抽象化・構造化”

第4章 創造性を高める知的生産システム …知的ストックの貯蔵法・活用法“ストック”

第5章 なぜ教養が「知の武器」になるのか? …戦闘力を高めるリベラルアーツの11ジャンルと99冊

最初に独学を

「戦略」→「インプット」→「抽象化・構造化」→「ストック」

の4ステップに分けて体系化しており画期的な技法、この考え方は目から鱗で非常に腹落ちした。

1 戦略

 どのようなテーマで知的戦闘力を高めるかを決める

2 インプット

 本やその他の情報ソースから情報を効果的にインプットする

3 抽象化・構造化

 知識を抽象化したり、他のものと組み合わせたりして独自の視点を持つ

4 ストック

 獲得した知識や洞察をセットで保存し、自由に引き出せるように整理する

今まで2のインプット、特に読書こそが独学と無意識に思い込んでいた自分に気付くことができ、この本に感謝している。以降、各ステップにおいてポイントとなる記載をまとめてみたい。

◼️戦略

・独学する対象を「ジャンル」ではなく「テーマ」で決める。ジャンルで選ぶと過去に誰かが体系化した知識の枠組みに沿って学ぶことになるので、自分ならではの洞察や示唆が生まれにくい。

・テーマとジャンルをクロスオーバーさせる。

・さらに大切なのは「自分が心の底からワクワクできるテーマかどうか」

・戦略は細かく決めすぎてはならない。偶然の連鎖を大事にすることも大切。戦略は粗い方向性だけ決めればよい。

・独学とは、「何を学ばないか」を決めること。思い付きで時間を浪費するのは、戦力の逐次分散投入と同じ、日本はこれで戦争に負けた。

◼️インプット

・「ガーベージイン・ガーベージアウト」GIGO 

 これは「ゴミを入れてもゴミしか生まれない」ということ。IT業界で使われる用語である。出力の質は入力の質で決まるという経験則。

・インプットと言うと読書を考えてしまうが、テレビ、ネット、映画、音楽など自分の五感を通じて得るもの全てがインプットとなる。情報が溢れる現在においては、要らない情報を捨てることの方が大事。

・読書の目的は4つ。

 1 仕事に必要な知識を得る

 2 専門領域を深める

 3 教養を深める

 4 娯楽

・いい本を選別することは難しい。名著、古典と呼ばれる本は長い期間の評価に耐えているだけにハズレ(間違い)がない。

 多くの本を読むのは、深く鋭く読むべき本を見つけるためである。大量の本を浅く流し読みしながら、深く読むべき本を探している。「濫読の時期がなかった人は大成しない」とは山口瞳の「続 礼儀作法入門」の言葉。

・共感できる情報ばかり集めているとバカになる。知識が極端になり独善的になり、同質化を起こす。

意見の対立がないと、質の高い意思決定は出来ない。知的水準が高くても、同じような人が集まれば意思決定の質は低くなる。

・自分を知るには、好きなものより嫌いなものを分析する方が簡単。大切なものを否定されるから怒りが起こる。

・情報には2種類ある。

 インフォメーション:いわゆる情報

 インテリジェンス:洞察や意思決定できる情報

・インプットする情報を選択することは大切だが、一方で「セレンディピティ」や「プリコラージュ」という目的外の偶然の出会いも大事である。

(参考)プリコラージュとは

 あり合わせの道具や材料で物を作ること。転じて持ち合わせているもので、現状を切り抜けること。日曜大工。英語のDIY(Do it yourself)にあたる。

レヴィーストロースは、人間の本源的な思考は、最初から完全な設計図を前提とするエンジニアの思考のような「知」ではなく、プリコラージュといわれる、あり合わせの素材を使い本来とは別の目的や用途のために流用する思考方法だと考えた。

・偶然は強い意思がもたらす必然である。

・インプットで大事なことは、メモをとること。これは、先日アップした前田さんの「メモの魔力」に詳しい。

◼️抽象化・構造化

 これも「メモの魔力」にあるのと同様、情報を使える戦力、武器にするためには必須の過程である。

・カギとなるのは、アナロジーを見つける力。アナロジーとは、複雑な物事を説明する際に、同じ特徴を持ったより身近な物事に例えて説明すること。類推とも言う。

・独学の目的は、新しい「知」ではなく、新しい「問い」を得ること。

 つまり洞察に繋がる「問い」を作る力が大切になる。問いの高い人とは、簡単に分かった気にならず、本当に分かったのかと自問し、矛盾や意味の通らない点はないかを確かめる。

・質問は好奇心から生まれる。また、知っているから質問が出てくる。知らなければ質問すら生まれない。

アインシュタインが友人であるソロビーヌに宛て書いた手紙。「自分の思考プロセス」の概念図

f:id:sisters_papa:20190412153022j:image

*「独学の技法」から引用

アブダクション

 起こった事象をもっともうまく説明できる仮説を作るための推論法のこと。仮説形成とも訳される。

 アメリカの哲学者パースがアリストテレスの論理学をもとに提唱し、帰納法演繹法と並ぶ第3の推論法として、新たな科学的発見に不可欠なものとして主張した。

◼️ストック

・本の読み方は「アンダーラインを引く→選別→転記」の3ステップ。

・忘却を前提(インプットされた情報の9割は短期間に忘れてしまう)とした、ストックが大事。つまり転記により、いつでも検索でき取り出せる状態にすること。

 

知的戦闘力とは、「洞察力」と「創造性」

・洞察力とは、「現象の背後で何が起きているのか?」「このあと、どのようなことが起こり得るのか?」という2つの問いに答えを出すこと。

・創造性とは、スティーブ・ジョブスの次の言葉が本質を突いている。

「創造性とは何かを繋げること。自分の経験から得られた知見を繋ぎ合わせて、それを新しいモノゴトに統合させる。」

・創造性にはレバレッジがきく。10個の知識を持っている人と100個の知識を持っている人では、組み合わせによって得られるアイデアの数はそれぞれ45個と4950個になる。つまり知識の量が10倍になれば生み出されるアイデアの数は100倍以上になる。

リベラルアーツを学ぶ理由として著者は5つ上げている。

 ①イノベーションを起こす武器となる

 ②キャリアを守る武器となる

 ③コミュニケーションの武器となる

 ④領域横断の武器となる

 ⑤世界を変える武器となる

・著者が勧めるリベラルアーツ11分野。

歴史、経済学、哲学、経営学、心理学、音楽、脳科学、文学、詩、宗教、自然科学

・歴史を学ぶとは、表面的な事実だけでなく、内部のメカニズムを考えること。そうすれば次に起こすべき行動の指針が得られる。

・経済学を学べば、市場のルールや価値の本質を見抜けるようになる。

・哲学を学べば、疑う力、否定と肯定を使い分ける力が身につく。考えることと悩むことは違うことに気づく。

・心理学によって、人間の不合理さや不条理性を理解する。

・音楽を学ぶことで、全体を直感的に把握する力が身につく。

脳科学により人間が起こすエラーパターンを学ぶ。人間の脳にはバグがある。

・詩により、表現力とりわけ比喩表現の強化が図れる。

・宗教は、人間のグループによる思考、行動様式を理解する手助けになる。

2019.4.1「知識創造の方法論〜ナレッジワーカの作法」野中郁次郎、紺野登

「知識創造の方法論〜ナレッジワーカの作法」 野中郁次郎、紺野登

私の読書を変えた本でもある「失敗の本質」の著者、野中郁次郎さんの書かれた本である。オーディオブックで購入し、やっと聞き終えた。私にとってはかなり難しい内容で知らない言葉も多く、何度も聞き返し知らない言葉はググるなど読み終える(聞き終える)まで2週間ほど費やした。

さらには、より深く理解するため、同じコンビで書かれた「知識経営のすすめ〜ナレッジマネジメントとその時代」を購入し読み始めたところである。

まずは、この本の全体像を理解するため目次を示す。

ーーーーー<目次>ーーーーーーー

序 知の方法を身にまとう

 1 新たな経営の知

 2 ナレッジワーカの時代

第1部 知の方法論の原点

 1 哲学にみる知識創造の知

 2 知識創造論で見た知の型

 3 知識創造プロセスと弁証法のダイナミズム

第2部 社会科学にみる知識創造の知

 1 科学の知の方法論の意味合いとその変遷

 2 社会学の知のアプローチ:構造、行為、意味、統合

 3 潜在的カニズムの発見へ

 4 新たな経営の知に向けて:総合の知

第3部 「コンセプト」の方法論

 1 コンセプトとは何か

 2 「観察」の方法論:アイデアの源泉としての経験

 3 「概念化」の方法論:意味の発見と形成

 4 「モデル化(理論化)」の方法論

 5 「実践化」の方法論

 6 日常的行為へ

第4部 経営と知の方法

 1 企業の知の型(組織的知識創造)

 2 ナレッジ・リーダシップ

ーーーーーーーーーーーーーーーー

まず、この本を読むにあたって基礎知識として必要なのがSECIモデル(セキモデル)。これは、野中郁次郎氏が、個人における知を「暗黙知」と「形式知」に分類し、その知をどのように循環させ、企業に根付かせていくかのプロセスをSECIモデルとして概念化したもの。個人の知(暗黙知)は、「共同化」、「表出化」、「連結化」、「内面化」という4つの変換プロセスを経ることで、集団や組織の共有の知となるという考え方である。

「共同化」Socializaition  暗黙知 ⇒ 暗黙知

 経験を共有することで、暗黙知を共有(人から人へ移転)すること

「表出化」Externalization 暗黙知 ⇒ 形式知

 暗黙知がメタファー、アナロジー、コンセプト、仮説、モデルなどの形を取りながら言葉で表現され形式知となり集団で共有されること

「連結化」Combination  形式知 ⇒ 形式知

 形式知を組合せたり、再配置することで新たな形式知を生み出すこと

「内面化」Internalization 形式知 ⇒ 暗黙知

 形式知暗黙知へ身体化すること。言い換えると形式知を自らのスキルやノウハウとして体得すること。形式化されたナレッジが新たな個人へ内面化することで、その個人と組織の知的資産となる。

 

以下に、ランダムではあるがポイントと思われる部分、あるいは心に残った文章を記載する。

・「ナレッジワーカーは間接部門ではない。知的価値を生み出す直接部門である。」日本で知的な仕事と言うと、間接部門の仕事であり、直接部門は物を作るところと考えがちだが、既に世界は変わっている。知的な活動こそが「価値=利益」を生む直接部門の仕事である。

・日本の部長課長が考えていることは、せいぜいA4用紙2~3枚程度の内容に過ぎない。日本の管理職に求められているのは、段取り力や部下をまとめる能力。概念とか思考は邪魔になると考えられてきた。

しかし、グローバルな世界では1冊の本に相当する深い思考力、教養がないと対等に会話すらできない。

 ・デュルケムの自殺論:自殺は個人的問題ではなく、社会的集合現象と捉える。

 「プロテスタントカトリックより自殺率が高い」

 「独身者は既婚者より自殺率が高い」

 「子供のない家庭はある家庭より自殺率が高い」

という統計データから次のことが言える。

「社会的結合力の強弱が、個人の不安の強弱に影響する」その結果が自殺という事象として表面化する。

人々の行動を規定している規則やルールには意識的なものと無意識によるものの二通りある。自殺は個人の自発的意思によるものでではないと考え、自殺を可能な限り自殺率という統計データだけを用いて分析することで、真の原因が見えてくる。

・よい物語(ストーリーテリング)の特徴

①明確に定義された1つのテーマ

②よく練られた筋書き、スタイル

③生き生きとした絵を見るような叙述

④微笑ましい音やリズム

⑤人格化されていること

物語は、太古の昔から存在する優れた「知識伝達の方法論」。

暗黙知の持つ豊かさを失わずに伝達できる。つまり、自分の経験である暗黙知をすべて形式知化してしまうことなしに「場」や「状況」を含めて伝える方法である。

・聞き手に伝わる物語 4つのポイント

①聞き手と結びつきがある

 聞き手に関わりのあるアイデア、または共感できる主人公の設定

②奇妙さがある(一般論や常識論は面白くない)

 聞き手の期待や気持ちを揺さぶるストーリー

③理解しやすい

 感情や感覚に訴えるように語る

④ハッピーエンドである

 何より大切なのがこれ、物語はハッピーエンディングしなくてはならない。

サントリーの「ボス」とホンダの「オデッセイ」、これらのコンセプト作りから学ぶことは多い。

 コンセプトを、¨表コンセプト¨と¨裏コンセプト¨に分け定義する。コンセプト創造のためには、頭で考えるだけでなく「体験」することが大事。ヘビーユーザを徹底的に知ることでアイデアの原型が生まれる。

(表コンセプト → 裏コンセプト → 真コンセプト)

・コンセプト創造のステップ

1 観察(アイデア

 観察、対話、経験を通して意図を理解し、アイデアの原型を得る

2 概念化(コンセプト)

 アブダクション的思考により意味を発見し、背後のメカニズムを把握する

3 モデル化(理論)

 変数へのブレークダウンから、因果関係を発見し理論化する

4 実践化

 「物語」の知により知識としての表現や移転を行う

・コンセプトを結果に見立て、その原因を探るというアプローチも有効である。コンセプトを構成する各要素間の因果関係を明らかにして、コンセプトの背後にある要素を変数として表現する。

商品コンセプトは、複数の変数の組み合わせで象徴的な意味を表すパターンが多い。

(例)「○○と△△の働きで体の自然なバランスを生み出す」「△△と○○の調和が生み出す街の賑わい」

 ・「守破離」は、いわば日本的な弁証法的思考法である。松下電器パナソニック)、ソニーには、コヒーレンス(首尾一貫性)とともに「破離」が求められている。

本田宗一郎の言葉「夢は持っているか。計画は立てているか。試しているか。」

・これからの時代に必要なのは「組織のビジョンや理念を一部の人間で作り社員で共有する」という営みではなく、「知の共有と創造が行われる場を作り、その場を活用する」こと(=知識経営)である。

知識経営とは、つまるところリーダシップの問題である。

 

2019.3.31「メモの魔力」前田裕二

SHOWROOM社長の前田さんが書いてベストセラーとなっている「メモの魔力」。読み終えてから随分時間が経ってしまったが、書かれていることの要約と感想をまとめる。

まず、この本で一番心に残ったのは、「終章」で語られている前田さんの”メモ術の原体験”である。大切な人を喜ばせるため、あるいは自分が愛されるための方策として「メモを取る」ことに全力を傾けた経験が語られ、妙に感動すると共に納得させられた。そんな前田流メモ術のキモを以下にまとめてみたい。

・メモを取るうえで最も大切なことは、

「ファクト⇒抽象化⇒転用」の思考フローにしたがって左から右へメモが流れるということ。これが日常のすべてをアイデアに変える最強のフレームワーク

・メモを「第2の脳」として使う。過去の事実(ファクト)を思い出すという余計なことに思考の時間を割かない。

→ 頭(脳)は覚えるためにあるのではない、考えるためにある。

・メモによって鍛えられる5つのスキル

①アイデアを生み出すスキル(知的生産性の向上)

②情報を「素通り」しなくなる(情報を受取る力の向上)

③相手のより深い話を聞き出す(傾聴力の向上)

④話の骨組みが分かる(構造化力の向上)

⑤あいまいな感覚や概念を言葉にする(言語化力の向上)

特に③により特別な敬意が相手に伝わることで相手も自分に対して敬意を抱いてくれる(返報性の原理)

また、④と⑤により深いコミュニケーションが成立する。言語化することは考えること、考えることは言語化すること。この相互作用によって頭が整理される。

・人は具体的な話を好む。なぜなら具体的な話は頭を使わず楽だから。だからこそ具体から本質を抽出して「つまりそういうこと(So What)」と抽象的な命題を発見することの価値が高い。

・頭は具体から抽象を、抽象から具体を導くために使う。「抽象化⇔具体化」の力が頭の良さ。

・メモの本質は、単に記録することではなく後から行う「振り返り」にある。振り返りによりファクトから抽象化し転用することがメモの本質。

・「抽象化」こそが最強の武器である。

誰かが抽象化したルールをただ具体的に使いこなすのは単純労働者の思考プロセス。具体の中から自分でルールを見つけ独自の視点で新しい発見や創造を行うのが、発明者的思考プロセス。

・抽象化のための思考法には3つある。

①WHAT型:現象を言語化する

②HOW型:特徴を抽出する

③WHY型:抽象化して物事の本質を知る

・抽象化とは端的に言うと「具体的な事象の本質を考える」ということ。具体的な事象から「他に転用可能な」要素、つまり気付き、背景、法則、特徴などを抽出する。その抽象化したものをさらに別の具体的なものに転用する。「具体⇒抽象⇒転用」という思考プロセスが大切。

・単に抽象化するだけではただのゲームに過ぎない。転用する先に具体的な課題がなくてはならない。解きたい具体的課題がなければ、そもそも抽象化する意味がないしモチベーションも湧かない。まずは前提として「解くべき課題の明確化」が必要。

・メモを取るには言語化のスキルが大前提。WHAT型の抽象化で言語化能力を高める。自分が紡いだ「生きた言葉」で語れるようになれば人の共感を得ることができる。

言語化に必要な二つの条件

①抽象化能力(特にアナロジー力)

一見関係ないようなものに共通点を見つけ結びつける能力

②抽象的な概念に名前を付ける能力

人は概念に名前をつけないと思考ができない(考えるとは書くこと、つまり言葉にすること)

世阿弥の言葉「我見」と「離見」

能楽論を書いた「花鏡」より。悪い演者は自分から見る目(我見)のみ、良い演者は離れたところから自分を客観視する目(離見)を持つ。

・「タコわさ理論」:経験していないこと、知らないことは「やりたい」と思うことさえできない。子供は誰でも「カレー」と「ハンバーグ」が好き、「タコわさ」など食べたことがない。「やりたい」ことを見つけるためにも、経験と知識は欠かせないということ。

・まずは自分を知ることが大切。そのためにメモを活用する。「自分の意識に目を向ける(具体化)⇒Whyで深堀する(抽象化)」これにより、ブレない人生の軸を見出し、自分の人生のアンカー(錨)とする。

・「流れ星を見た瞬間に願いを唱えると夢が叶う」が意味するところは、瞬間でも言葉に出るくらい強い想いを持っているから夢が叶う、ということ。思いは強いほど、行動への反映率が上がる。

・夢を実現したいのであれば「思う」だけではだめ、逃げずに言語化し、さらには映像化(目に見える状態)にすること。

・目標を達成するためにモチベーションを上げる二つの方法

①逆算(トップダウン型)

目標(ゴール)を明確に決めて、そこから”逆算”して日々の行動を決める。

②熱中(ボトムアップ型)

目の前の面白そうなことに飛びつく(目の前のことに”熱中”する)ことで日々の行動が決まっていく。その結果大きく前進する。

・目標が複数ある場合に取るべき道は二つ

①マージする(一つにまとめる)

選択と集中(一つに絞り他を捨てる)

・目標(ゴール)設定のコツ:SMART

S:Specific 具体的である

M:Measurable 測定可能である

A:Achievable 達成(到達)可能である

R:Related 関連性がある(価値観が合う)

T:Time 時間の制約がある

特に大切なのはS(具体的)、M(測定可能)、T(時間制約)の3つ。

・ストーリーを語るときの3つのポイント

①できるだけ「具体的」に話す。情景が浮かぶようにエピソードを話す。人は具体的な情報のほうが記憶に残る。

②「間」を恐れずに使いこなす。「次の言葉を忘れた」と思わすくらいに間を置く。つまり、聞く人に考える時間を与える。

③できるだけ「双方向、インタラクティブ」に話す。実際に会話できなくても質問を投げた後、少し間を置くことで「心のインタラクティブ」を実施する。

また、聞き手の不安を取り除くためには、いきなり具体的なエピソードに入るのでなく、話の着地点(伝えたいことのエッセンス、抽象度の高い命題)を提示してから具体的エピソードを語ることも大事。

・成長のためには「習慣に勝る武器はない」。良い意味で習慣の奴隷になること。

・ライフチャートを描くことで人生を水平に捉える。変曲点に注目する。なぜ上がったのか?なぜ下がったのか?これにより自分が大切にしている価値観が分かる。

・メモは「創造の機会損失」を減らすツールである。「明日どんな情報が大切になるか」は誰にもわからない。だからメモに残す。

・人生とは、所詮「時間をどう使ったか」の結果でしかない。したがって「時間をどう使うか」と考えた時、自分の人生を幸せにする選択をすることが大切になる。

・メモとは生き方そのものである。メモによって

 世界を知り、アイデアが生まれる。

 自分を知り、人生のコンパスを持つ。

 夢を持ち、熱が生まれる。

その熱が自分を動かし、人を動かし、結果、人生や世界をも動かす。

 

2019.3.10「鳥類学者無謀にも恐竜を語る」川上和人

今週読み終えた本は次の2冊。

1「自分の頭で考え動く部下の育て方」篠原信(A)

2「鳥類学者無謀にも恐竜を語る」川上和人

続いて2について。

「鳥は恐竜である」に留まらず、さらに「恐竜は鳥である」とまで著者は言いきる。この本はよくある恐竜本ではなく、まさに鳥類学者(鳥の専門家)が書いた恐竜の本である。

「第3章 無謀にも鳥から恐竜を考える」では、鳥の生態をもとに恐竜の外観の色、巣の作り方、夜行性か昼行性か、などを妄想(?)豊かに語っている。鳥についての知識はもちろん、恐竜に対する知識も半端なく、最新の研究成果も盛り込みながら、しかし自由な発想で面白おかしく恐竜への愛を綴っている。

読んでいて「なるほど」と新しく気付かされたことを、いくつかメモしておく。

・恐竜が二足歩行を実現することができたのは、それ以前の爬虫類と異なる脚の付き方を進化させたからである。ワニやトカゲでは、体の横から張り出すように脚がついている。一方、恐竜の脚は、体から下向きについている。

これによって恐竜は巨大化できた。さらに移動距離を大幅に広げることもできることとなった。

・「グロージャーの法則」南に行くほど生物の色が濃くなるというパターンのこと。「ベルグマンの法則」北に住む個体ほど、体が大きくなるという法則。

・進化は「節約的」に考えることがルールとなっている。つまり色々な種類で同じ進化が何度も独立して起こったと考えるより、共通の祖先が一度だけ進化したと考えるほうが、より確からしいと言う考え方である。

・恐竜は立派な尾を持っている。この尾はなんのために進化したのか?

脊椎動物はもともと水中で進化してきた。魚類が生まれ両生類が出現した。魚類時代の尾は間違いなく推進力を得るための運動器官として発達してきた。しかし陸上では、カエルを見れば一目瞭然。オタマジャクシ時代にはあった尾が、カエル時代にはなくなる。空気は水に比べて抵抗が小さいため、尾で推進力を生み出すことは難しく、元来の目的で維持する必要がなくなったと考えられる。では何故、恐竜には大きな尾があるのか。尾は単なる重りではなく、走るための巨大な筋肉の格納庫であり、その支えとなっている。また、巨大な上半身を支えるバランサーというのも尾の重要な機能の一つだろう。

・鳥のくちばしは、歯のある口の代わりに生まれたものではない。手の代用品として生まれたというべきだ。つまり「くちばし=手+口」なのである。

・味覚には、甘味、旨味、酸味、塩味、苦味の基本要素がある。甘味はエネルギーになる糖の味、旨味は体を作るアミノ酸の味、塩味は必須元素のミネラルの味、苦味は毒の味、酸味は未熟や腐敗といった鮮度を示す味。このとおり味の要素には、すべて生きていくための意味がある。

・種子が未熟な間は、果肉に酸味や苦味がある。種子が成熟し種子散布される準備が整うと、果肉が甘く美味しくなり芳香を放ち散布者を誘う。種子は果肉という対価を払い、動物というタクシーに乗って移動する。

・今から6,600万年前の白亜紀末、恐竜時代が突然終わりを告げた。この白亜紀末には、恐竜だけでなく被子植物アンモナイト翼竜、首長竜など様々な分類群で絶滅が起こっている。原因として考えられているのは、メキシコのユカタン半島にあるクレータを生み出した巨大小天体衝突である。直径200キロにも及ぶ巨大クレーターで、チチュルブ・クレーターと呼ばれている。

衝突による衝撃は、大地震を起こし、衝突による噴出物は地球全体での気温上昇をもたらし、地表面温度は260度に達したと言われる。

 

福井駅前にある動く恐竜のモニュメントに驚いたのは、3年前。仕事で訪れた福井駅の真ん前に、声をあげ動く巨大な恐竜がいた。

男の子はみんな恐竜が大好きだが、私も小さい頃、恐竜にあこがれ図鑑を見たものだ。その後ジェラシックパークなどの映画で、実際に闊歩する恐竜に興奮したものである。その映画にも匹敵するようなリアルな恐竜が駅前にいたのである。本当にびっくりした。

この本は、そんな恐竜への興味をさらに駆り立てる。子供の頃同様、またまた恐竜に関する本を読んでみたくなった。

 

2019.3.10「自分の頭で考えて動く部下の育て方」篠原信

今週読み終えた本は次の2冊。

1「自分の頭で考え動く部下の育て方」篠原信(A)

2「鳥類学者無謀にも恐竜を語る」川上和人

まずは1について。

「優秀な人のもとでは部下が育たない、何故か?」そんな疑問に答えてくれる本。優秀な人ほど「自分でやったほうが早い病」にかかってしまい、結果部下を指示待ち人間に仕立て上げてしまいます。この本は「上司1年生の教科書」と副題がついているように初めて部下を持つ上司が注意しなくてはならないことを中心に書いています。しかし私のように長年上司を経験した者にとっても改めて考えさせられることの多い内容でした。まずは三国志に登場する諸葛孔明のエピソードをもとに、上司がいかにして考えない部下を作っているか、を述べています。この例えはすっと腹落ちしました。

孔明のエピソードから学ぶ

 孔明には奇妙な矛盾があった。劉備玄徳らと一緒に蜀を攻めていた時には、中々勝利を収めることができず「蜀にこんなにも人材がいるとは」と驚いていた。ところが孔明が蜀の支配者となり最後の戦いの頃には「蜀には人材がいない」と孔明自身が嘆いている。人材がキラ星のごとくいたはずの蜀から、人材が消えてなくなってしまった。何故か?

(1)孔明に死期が迫った頃、孔明から敵将の司馬懿(しば・い)に使者が送られた。司馬懿が使者に孔明の働きぶりを尋ねると、使者は「朝は早くに起きて夜遅くまで執務しておられます。どんな細かい仕事でも部下に任せず、ご自身で処理します」と答えた。

(2)「泣いて馬謖を切る」という故事がある。馬謖孔明が後継者と期待する超優秀な部下だった。ある時この馬謖に敵陣を攻略させるに当たり、孔明は「陣地を山上に築いてはならない」と繰返し指示した。馬謖は優秀な故、この指示を守らず山上に陣地を構えた。そのため敵軍に包囲され水源地を敵に奪われて水が飲めなくなり降参してしまった。孔明は他の部下の手前、指示に従わず大敗の原因を作った馬謖を、泣きながら斬らざるを得なかった。

(1)のエピソード:部下に任せればいい些細なことにまで口を出していれば、部下は自分で考えることを止めてしまう。孔明の指示を待ち、それに従えば良いと考える部下を自ら作っていた、と言える。

(2)のエピソード:馬謖ほど優秀であれば、山上の陣地が危ないことに自分で気付けたはずだ。しかし孔明馬謖に対しても才能を信じていないかのように初歩的なことまで指示している。馬謖にすれば自分を信じて任せてくれないことに天の邪鬼になり、「戦略を逆にしても勝てることを見せてやる」とムキになったかもしれない。自分に自信があり優秀な人間ほど、事細かに指示されることが嫌いだ。自分が考える前に指示を出されてしまっては、功績はすべて指示を出した人間のものになってしまう。孔明馬謖自ら危険性に気付き戦略を立てるように仕向けるべきであった。

これらのエピソードから分かることは、孔明から見れば、どんな優秀な部下であっても自分の判断より劣っているように思えたのであろう。だから全部自分で判断し「最良の判断」に仕上げずにはいられなかった。

蜀から人材がなくなったのではない。孔明が蜀から人材を消してしまったのだ。孔明は「自分がやったほうが早い病」にかかり、見事な「指示待ち人間製造機」になってしまった。

部下が失敗したときにどう接するか?それによって指示待ち人間が作られてしまう。失敗した時にそれを責めると、次からは指示どおりにやって叱られないようにしようとする。こうして、立派な「指示待ち人間」がどんどん製造される。

 

その他、この本で特に印象に残ったことを記録に残します。

・上司の非常識な六訓

 ①部下ができたら楽になろうと思うなかれ

 ②上司は部下より無能で構わない

 ③威厳はなくて構わない

 ④部下に答えを教えるなかれ

 ⑤部下のモチベーションを上げようとするなかれ

 ⑥部下を指示なしで動かす

・私たちはともすると、「上司は部下よりも優秀でないといけない。部下に負けてはならない」と思い込み、部下をライバル視して競争してしまう。しかし上司は部下と能力を争ってはならない。自分より優秀な部下を使いこなすのが上司の醍醐味。部下から尊敬されることを望むのではなく、まずは自分から部下を尊敬すること。そうすれば自然と部下も自分を尊敬してくれる。

山本五十六の言葉

「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば、人は動かじ」ここまでは有名、実は続きがある。

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」

有名な最初の言葉から、上司たるもの部下に見本を見せる必要がある、と思いがちだが、山本五十六も部下を承認しその能力や才能を認めて尊敬することの大切さを説いている。

・部下のモチベーションを上げようとしてはならない。苗を伸ばそうと引っ張れば根が切れてしまう。(助長※)モチベーションも無理やり引っ張り上げようとすれば、逆に部下のやる気を削いでしまう。モチベーションを上げようとするのではなく、削ぐ原因を排除することに注力することが大事。

※助長:中国の故事

孟子が弟子に語った「昔宗に生真面目な農夫がいた。彼は苗の成長が遅いのを心配し、成長を助けようと全ての苗を少しずつ引っ張った。それを知った息子が畑に走ったが、既に苗の根は切れ枯れてしまっていた」人は成果を焦って、元も子もなくしてしまうこと、の諌め

・創意工夫をする、つまり未知のことを知るためには仮説思考が重要になる。仮説思考とは「観察」→「推論」→「仮説」→「検証」→「考察」の順で考えること。人が生まれながらに実践している思考方法である。ところが、小学校に入り「既に答えは何処かにあり、それを覚えることが勉強」と思い込まされてしまうことで忘れてしまっている。

・部下に質問しながら、部下に考えてもらい、一緒になって部下の思考を深める。これはソクラテスの対話術として知られる「産婆術」そのもの。「産婆術」とは、相手の出した論説や概念を質問を重ねることで吟味しつつ、当人の意識していなかった新しい思想を生み出させる問答法をいう。

言い換えれば、「自らでは知恵を産む力はないが、他の人々がそれを助けて知恵を産む」ということ。ソクラテスは、この方法を母の仕事であった産婆に擬えて産婆術と呼んだ。

・知識とは、知と知の織物

記憶しようとすればするほど覚えられない。直ぐに忘れてしまう。最小限だけ覚えようとするほど覚えられない。記憶は、それ単体では引き出しにくい。様々な関連する記憶とともに覚えることで脳に定着し引き出すことも容易になる。まさに記憶(知)は、知単体で存在するものでなく、知と知が織り成す織物として存在する。

・ペルソナ:私たちは意識するしないに関わらず、地位や役割、場面に合わせて態度や行動を変える。つまり「役割を演じている」、これがユングが提唱した「ペルソナ」

もとは古代のローマの古典劇において演者が身につけていた仮面のこと。つまり私たちはふだんの生活の中で「仮面」をつけて暮らしている、ということ。

部下が期待に応えてくれない時、私たちは自分の気持ちを納得させるため「こいつは怠け者、どうしようもない奴」などのレッテルを貼って諦める。このとき上司の深層心理では部下に報復するためにレッテル張りをしている。すると部下は対抗するために、あるいは自分の内面・心を守るためにペルソナを被る。レッテル張りとペルソナ、上司と部下の報復合戦が始まる。

・「信頼している」と言って「期待」を押し付けてはならない。「信頼」と「期待」は別物。信頼は無償であるが、期待は見返りを求める。

・成果や成績のような外面を褒めてはならない。単にプレッシャーを与えるか、間違った優越感を与えることになる。

工夫や努力、苦労などの内面・プロセスを褒める。そうすればさらに改善しようというように改善意欲が湧いてくる。

・複数の部下に対する接し方には、シュタイナー理論が参考になる。シュタイナー理論とは、ドイツの心理学者シュタイナーが唱えた子育て理論。一言で言えば「公平な偏愛」。一見矛盾する言葉であるが、複数の子供がいる場合、目の前にいる子供に対して「あなたが一番好きよ」と接し、全員にそう思わせること。これにより子供たちは満ち足りた気持ちになり豊かに育つ。

・「叱りつけ恐怖を与えないと部下は動かない」という考えを持つ上司も多い。特に平社員時代優秀だった人、体育会系の縦社会で育った人に多い。このいまだに残る体育会系の恐怖により部下を動かすやり方は、日露戦争後に逃げ出す兵士に困った軍隊が、兵士を無理やり引き止める方法として採用したもの。兵士に考えることを止めさせ指示に従う従順な人間を作り出す手法。したがって恐怖による指導から自分で考える部下は絶対に育たない。

 

結局、「自分の頭で考えて動く部下」を育てるためには、次の3つが大切だと感じた。

 ①答えを教えるのではなく部下に発見させる

 ②部下には指示せず質問する

 ③部下が失敗しても咎めない

 

2019.3.3「異文化理解力」エリン・メイヤー

今週読み終えた本は1冊だけ、最近amazonプライムに入会し海外ドラマに嵌まってしまいました。「ゲーム・オブ・スローンズ」に始まり「グリム」と続き、今は「メンタリスト」に夢中です。本当に面白い!

結果、読書時間が減ってしまいました。明日からは計画的に時間配分を変えていくつもりです。

 

1 「異文化理解力」 エリン・メイヤー

この本は久しぶりに「目から鱗」の面白さ。日頃ビジネス上で感じている日本文化の特徴に「なるほど」と気付かされる内容です。

この本では、それぞれの国の文化(特にビジネス上の文化)を次の8つの切り口で比較しています。

①コミュニケーション

②評価

③説得

④リード(リーダーシップ)

⑤決断

⑥信頼

⑦見解の相違

⑧スケジューリング

この本では、これらの切り口それぞれに、どの国がどの位置にいるかの分布を示しています。もちろん同じ国であっても個人差はあるわけですが、一定の幅を持ちつつ国によって一定の傾向が見られるのです。また、相手をどのように感じるかは、その分布上の絶対的位置によるのではなく、自分との相対的位置関係で決まる、この理解が非常に需要である、と著者は強調しています。

それぞれの指標について簡単にまとめます。

①コミュニケーション

「ローコンテクスト」か「ハイコンテクスト」か、これを両端としてどこに位置づけられるかで、その国におけるコミュニケーションのあり方が分かる。

ローコンテクスト:良いコミュニケーションとは厳密で、シンプルで、明確なものである。メッセージは額面通りに受け取る。言葉は文脈によらず本来の意味で使われる。コミュニケーションの責任は送り手にある。

ハイコンテクスト:良いコミュニケーションとは繊細で、含みがあり、多層的なものである。メッセージは行間で伝え、行間で受け取る。ほのめかして伝えられることが多く、はっきりと口にすることは少ない。言葉はそれが使われている文脈によって意味するところが変わる。受け手は文脈を理解する必要がある。コミュニケーションは送り手と受け手の双方に責任がある。また、ハイコンテクストの文化では言われた言葉だけでなく、言われなかったことからも意味を受け取らなくてはならない。

アジアの国々はハイコンテクスト側に位置するが、その中でも日本は最も極端にハイコンテクストである。長年に渡り単一民族で同じ歴史を共有していることに起因しているのだろう。

②評価

「直接的なネガティブ・フィードバック」と「間接的なネガティブ・フィードバック」に区分される。

直接的なフィードバック:同僚などへのネガティブ・フィードバックは、率直に、単刀直入に、正直に伝えられる。オランダ、ロシア、イスラエル、ドイツなどが典型例。

間接的なフィードバック:同僚などへのネガティブ・フィードバックは柔らかく、さり気なく、やんわりと伝えられる。ここでも日本を始めアジア諸国はこちらに位置する。ただ、中国は相対的に直接的フィードバック側に寄っているため、日本人は中国人が直接的にフィードバックすると感じる。

③説得

「原理優先」と「応用優先」の指標で理解できる。

原理優先:最初に理論や複雑な概念を理解してから事実や、発言や、意見を提示するように訓練されている。理論的な検討から結論に移るのが好ましいとされている。各事象の奥に潜む概念的な原理に価値が置かれる。

応用優先:事実や、発言や、意見(結論)を提示した後で、それを裏付けたり結論に説得力を持たせる概念を加えるように訓練されている。まとめたり箇条書きにしてメッセージや報告を伝えるのが好ましいとされている。具体的で実践的な議論が重視され、理論や哲学的な議論はビジネス環境では避けられる。アメリカの本に、やたらと多くの事例紹介が掲載されている理由が解った気がする。

イタリア、フランスなどは典型的な原理主義、イギリス、オーストラリア、カナダ、そしてアメリカなどアングロサクソン系の国々は応用優先である。この傾向は法律に対する考え方にも影響を与えている。

(参考)「コモン・ロー」と「シビル・ロー」

コモン・ローとは、先例主義であって制定法ではなく判例を中心とする法体系。シビル・ローとは、制定法(法典)を中心とする法体系である。

なお、この指標による区分はアジア諸国には当てはまらない。物事を見るときの捉え方に、欧米とアジアでは大きな違いがある。

主役重視:主役、中核となる特定のポイントに視点を合わせ物事を理解しようとする。欧米(特にアメリカ)がこれに該当する。

脇役重視:脇役、つまり背景など全体を眺め物事を理解しようとする。アジア諸国(特に日本)はこれに該当する。

アメリカ人と日本人に人物写真を撮らせると、アメリカ人は顔をアップにして撮る。日本人は背景を含め全身を撮る。

④リード(リーダーシップ)

これは「平等主義的」と「階層主義的」の指標で表される。

平等主義的:上司と部下の距離は近い。理想の上司とは平等な人びとの中のまとめ役である。組織はフラット。しばしば序列を越えてコミュニケーションが行われる。

階層主義的:上司と部下の距離は遠い。理想の上司とは最前線で導く強い旗振り役である。肩書が重要、組織は多層的で固定的。序列に沿ってコミュニケーションが行われる。

デンマーク、オランダ、スウェーデンなどは典型的な平等主義の国、日本を始めアジア諸国や中東の国は階層主義的な国に分類される。ヨーロッパの中でもイタリアやスペインはどちらかというと階層主義的に寄っている。これはローマ帝国の配下にあった国と一致する。中央集権的な帝国の一員であった歴史が階層主義に反映されたのだろう。一方、デンマークなどスカンジナビアの国々は平等主義的である。これは彼等がバイキングの子孫であることと関係しているようだ。バイキングは極めて平等主義的な組織であり誰もが自分がリーダであると考えていたほど。

また、プロテスタントは神と直接会話することからプロテスタントの国は平等主義的であり、カトリックの国は階層主義的な傾向がある。

アジア諸国が階層主義的なのは、孔子の影響が強いと考えられる。

⑤決断

「合意志向」か「トップダウン志向」かの違いがある。

合意志向:決断は全員の合意のうえグループでなされる。

トップダウン式:決断は個人(多くは上司)でなされる。

決断には、十分に議論し様々なリスクを検討し尽くした上で行われる「大文字の決断」と、とにかく早く決断し実行しながら、その決断を調整していく「小文字の決断」がある。変化の速いビジネス環境では「小文字の決断」が有利であろう。

アメリカの特徴として、組織・人間関係は平等主義的であるが決断(意思決定)はトップダウン式であるということ。ヨーロッパの平等主義的な国は、決断も合意志向が強い。

ドイツとアメリカの得意な点は、評価と決断のミスマッチにある。ドイツは決断においては合意志向であるにも関わらず、評価(ネガティブ・フィードバック)は直接的である。一方アメリカは、トップダウン式で決断するがネガティブ・フィードバックは間接的に行う。まず多くのポジティブ・フィードバックを行ったうえで控えめにネガティブ・フィードバックを行うのである。

⑥信頼

「タスクベース」と「関係ベース」に区分される。

タスクベース:信頼はビジネスに関連した活動によって築かれる。仕事の関係は状況によってくっついたり離れたり簡単にできる。いい仕事をしていれば頼りがいがあると思われ信頼される。

関係ベース:信頼は一緒に食事をしたり、お酒を飲んだりして築かれる。仕事の関係はゆっくりと長い時間をかけて築かれる。個人的な時間も共有することで、また信頼できる友を共有していることで信頼される。

言い換えればタスクベースは「桃型」、関係ベースは「ココナッツ型」と言える。桃型は最初の一口二口は柔らかく甘いが、芯まで行くと硬い。一方ココナッツ型は、最初は硬く穴を開けるまでは時間がかかるが、一旦穴が開くと中は柔らかい。

⑦見解の相違

「対立型」と「対立回避型」に分けられる。

対立型:見解の相違や議論はチームや組織にとってポジティブなものと考えている。表立って対立するのは問題ないことであり、関係にネガティブな影響は与えない。

対立回避型:見解の相違や議論はチームや組織にとってネガティブなものだと考えている。表立って対立するのは問題で、グループの調和が乱れたり、関係にネガティブな影響を与える。

イスラエル、フランス、ドイツなど原理優先の国に「対立型」が多い。アジア諸国は「対立回避型」である。しかし中国、韓国の人は親しい仲(身内、友人など)では対立回避型であるが、外の人(部外者)に対しては対立を回避しない傾向がある。

対立型の国では、その人が持つ意見と人格は別のものと明確に区分される。フランスなどでは小さい頃から「テーゼ→アンチテーゼ→ジンテーゼ」のプロセスが重視され、議論の鋭い対立があるほど、良い結論が得られると教えられる。

一方、対立回避型の国では意見と人格は同一視される。意見を否定することは、その人を否定しプライドを傷つけることに繋がる。

ビジネスにおいては時により対立型が大切になる。(悪魔の代弁者が必要)

「提案をより良くするためには、その提案に対して反論を加えなくてはならない。反論して初めてその提案は良いものになる。」

⑧スケジューリング

「直線的な時間」と「柔軟な時間」に区分される。

直線的な時間:プロジェクトは連続的なものと捉えられ、一つの作業が終わったら次の作業へと進む。一度にひとつずつ。邪魔は入らない。重要なのは締切を守りスケジュールどおりに進むこと。柔軟性ではなく組織性や迅速さに価値が置かれる。

柔軟な時間:プロジェクトは流動的なものと捉えられ、場当たり的に仕事を進める。様々なことが同時に進行し邪魔が入っても受け入れられる。大切なのは順応性であり、組織性よりも柔軟性に価値が置かれる。

日本は明らかな「直線的な時間」、列車ダイヤの正確さに顕著に現れている。アメリカやドイツも同様。

他の国では許容される時間の幅が、フランスでは約10分、これが中国や中東やアフリカになると数時間、場合によれば数日になる。

ふだんは空気のように意識していないが、グローバルな視点で見ると、私たち日本人の考え方がいかに特殊であるか、まさに目から鱗です。