2019.3.3「異文化理解力」エリン・メイヤー

今週読み終えた本は1冊だけ、最近amazonプライムに入会し海外ドラマに嵌まってしまいました。「ゲーム・オブ・スローンズ」に始まり「グリム」と続き、今は「メンタリスト」に夢中です。本当に面白い!

結果、読書時間が減ってしまいました。明日からは計画的に時間配分を変えていくつもりです。

 

1 「異文化理解力」 エリン・メイヤー

この本は久しぶりに「目から鱗」の面白さ。日頃ビジネス上で感じている日本文化の特徴に「なるほど」と気付かされる内容です。

この本では、それぞれの国の文化(特にビジネス上の文化)を次の8つの切り口で比較しています。

①コミュニケーション

②評価

③説得

④リード(リーダーシップ)

⑤決断

⑥信頼

⑦見解の相違

⑧スケジューリング

この本では、これらの切り口それぞれに、どの国がどの位置にいるかの分布を示しています。もちろん同じ国であっても個人差はあるわけですが、一定の幅を持ちつつ国によって一定の傾向が見られるのです。また、相手をどのように感じるかは、その分布上の絶対的位置によるのではなく、自分との相対的位置関係で決まる、この理解が非常に需要である、と著者は強調しています。

それぞれの指標について簡単にまとめます。

①コミュニケーション

「ローコンテクスト」か「ハイコンテクスト」か、これを両端としてどこに位置づけられるかで、その国におけるコミュニケーションのあり方が分かる。

ローコンテクスト:良いコミュニケーションとは厳密で、シンプルで、明確なものである。メッセージは額面通りに受け取る。言葉は文脈によらず本来の意味で使われる。コミュニケーションの責任は送り手にある。

ハイコンテクスト:良いコミュニケーションとは繊細で、含みがあり、多層的なものである。メッセージは行間で伝え、行間で受け取る。ほのめかして伝えられることが多く、はっきりと口にすることは少ない。言葉はそれが使われている文脈によって意味するところが変わる。受け手は文脈を理解する必要がある。コミュニケーションは送り手と受け手の双方に責任がある。また、ハイコンテクストの文化では言われた言葉だけでなく、言われなかったことからも意味を受け取らなくてはならない。

アジアの国々はハイコンテクスト側に位置するが、その中でも日本は最も極端にハイコンテクストである。長年に渡り単一民族で同じ歴史を共有していることに起因しているのだろう。

②評価

「直接的なネガティブ・フィードバック」と「間接的なネガティブ・フィードバック」に区分される。

直接的なフィードバック:同僚などへのネガティブ・フィードバックは、率直に、単刀直入に、正直に伝えられる。オランダ、ロシア、イスラエル、ドイツなどが典型例。

間接的なフィードバック:同僚などへのネガティブ・フィードバックは柔らかく、さり気なく、やんわりと伝えられる。ここでも日本を始めアジア諸国はこちらに位置する。ただ、中国は相対的に直接的フィードバック側に寄っているため、日本人は中国人が直接的にフィードバックすると感じる。

③説得

「原理優先」と「応用優先」の指標で理解できる。

原理優先:最初に理論や複雑な概念を理解してから事実や、発言や、意見を提示するように訓練されている。理論的な検討から結論に移るのが好ましいとされている。各事象の奥に潜む概念的な原理に価値が置かれる。

応用優先:事実や、発言や、意見(結論)を提示した後で、それを裏付けたり結論に説得力を持たせる概念を加えるように訓練されている。まとめたり箇条書きにしてメッセージや報告を伝えるのが好ましいとされている。具体的で実践的な議論が重視され、理論や哲学的な議論はビジネス環境では避けられる。アメリカの本に、やたらと多くの事例紹介が掲載されている理由が解った気がする。

イタリア、フランスなどは典型的な原理主義、イギリス、オーストラリア、カナダ、そしてアメリカなどアングロサクソン系の国々は応用優先である。この傾向は法律に対する考え方にも影響を与えている。

(参考)「コモン・ロー」と「シビル・ロー」

コモン・ローとは、先例主義であって制定法ではなく判例を中心とする法体系。シビル・ローとは、制定法(法典)を中心とする法体系である。

なお、この指標による区分はアジア諸国には当てはまらない。物事を見るときの捉え方に、欧米とアジアでは大きな違いがある。

主役重視:主役、中核となる特定のポイントに視点を合わせ物事を理解しようとする。欧米(特にアメリカ)がこれに該当する。

脇役重視:脇役、つまり背景など全体を眺め物事を理解しようとする。アジア諸国(特に日本)はこれに該当する。

アメリカ人と日本人に人物写真を撮らせると、アメリカ人は顔をアップにして撮る。日本人は背景を含め全身を撮る。

④リード(リーダーシップ)

これは「平等主義的」と「階層主義的」の指標で表される。

平等主義的:上司と部下の距離は近い。理想の上司とは平等な人びとの中のまとめ役である。組織はフラット。しばしば序列を越えてコミュニケーションが行われる。

階層主義的:上司と部下の距離は遠い。理想の上司とは最前線で導く強い旗振り役である。肩書が重要、組織は多層的で固定的。序列に沿ってコミュニケーションが行われる。

デンマーク、オランダ、スウェーデンなどは典型的な平等主義の国、日本を始めアジア諸国や中東の国は階層主義的な国に分類される。ヨーロッパの中でもイタリアやスペインはどちらかというと階層主義的に寄っている。これはローマ帝国の配下にあった国と一致する。中央集権的な帝国の一員であった歴史が階層主義に反映されたのだろう。一方、デンマークなどスカンジナビアの国々は平等主義的である。これは彼等がバイキングの子孫であることと関係しているようだ。バイキングは極めて平等主義的な組織であり誰もが自分がリーダであると考えていたほど。

また、プロテスタントは神と直接会話することからプロテスタントの国は平等主義的であり、カトリックの国は階層主義的な傾向がある。

アジア諸国が階層主義的なのは、孔子の影響が強いと考えられる。

⑤決断

「合意志向」か「トップダウン志向」かの違いがある。

合意志向:決断は全員の合意のうえグループでなされる。

トップダウン式:決断は個人(多くは上司)でなされる。

決断には、十分に議論し様々なリスクを検討し尽くした上で行われる「大文字の決断」と、とにかく早く決断し実行しながら、その決断を調整していく「小文字の決断」がある。変化の速いビジネス環境では「小文字の決断」が有利であろう。

アメリカの特徴として、組織・人間関係は平等主義的であるが決断(意思決定)はトップダウン式であるということ。ヨーロッパの平等主義的な国は、決断も合意志向が強い。

ドイツとアメリカの得意な点は、評価と決断のミスマッチにある。ドイツは決断においては合意志向であるにも関わらず、評価(ネガティブ・フィードバック)は直接的である。一方アメリカは、トップダウン式で決断するがネガティブ・フィードバックは間接的に行う。まず多くのポジティブ・フィードバックを行ったうえで控えめにネガティブ・フィードバックを行うのである。

⑥信頼

「タスクベース」と「関係ベース」に区分される。

タスクベース:信頼はビジネスに関連した活動によって築かれる。仕事の関係は状況によってくっついたり離れたり簡単にできる。いい仕事をしていれば頼りがいがあると思われ信頼される。

関係ベース:信頼は一緒に食事をしたり、お酒を飲んだりして築かれる。仕事の関係はゆっくりと長い時間をかけて築かれる。個人的な時間も共有することで、また信頼できる友を共有していることで信頼される。

言い換えればタスクベースは「桃型」、関係ベースは「ココナッツ型」と言える。桃型は最初の一口二口は柔らかく甘いが、芯まで行くと硬い。一方ココナッツ型は、最初は硬く穴を開けるまでは時間がかかるが、一旦穴が開くと中は柔らかい。

⑦見解の相違

「対立型」と「対立回避型」に分けられる。

対立型:見解の相違や議論はチームや組織にとってポジティブなものと考えている。表立って対立するのは問題ないことであり、関係にネガティブな影響は与えない。

対立回避型:見解の相違や議論はチームや組織にとってネガティブなものだと考えている。表立って対立するのは問題で、グループの調和が乱れたり、関係にネガティブな影響を与える。

イスラエル、フランス、ドイツなど原理優先の国に「対立型」が多い。アジア諸国は「対立回避型」である。しかし中国、韓国の人は親しい仲(身内、友人など)では対立回避型であるが、外の人(部外者)に対しては対立を回避しない傾向がある。

対立型の国では、その人が持つ意見と人格は別のものと明確に区分される。フランスなどでは小さい頃から「テーゼ→アンチテーゼ→ジンテーゼ」のプロセスが重視され、議論の鋭い対立があるほど、良い結論が得られると教えられる。

一方、対立回避型の国では意見と人格は同一視される。意見を否定することは、その人を否定しプライドを傷つけることに繋がる。

ビジネスにおいては時により対立型が大切になる。(悪魔の代弁者が必要)

「提案をより良くするためには、その提案に対して反論を加えなくてはならない。反論して初めてその提案は良いものになる。」

⑧スケジューリング

「直線的な時間」と「柔軟な時間」に区分される。

直線的な時間:プロジェクトは連続的なものと捉えられ、一つの作業が終わったら次の作業へと進む。一度にひとつずつ。邪魔は入らない。重要なのは締切を守りスケジュールどおりに進むこと。柔軟性ではなく組織性や迅速さに価値が置かれる。

柔軟な時間:プロジェクトは流動的なものと捉えられ、場当たり的に仕事を進める。様々なことが同時に進行し邪魔が入っても受け入れられる。大切なのは順応性であり、組織性よりも柔軟性に価値が置かれる。

日本は明らかな「直線的な時間」、列車ダイヤの正確さに顕著に現れている。アメリカやドイツも同様。

他の国では許容される時間の幅が、フランスでは約10分、これが中国や中東やアフリカになると数時間、場合によれば数日になる。

ふだんは空気のように意識していないが、グローバルな視点で見ると、私たち日本人の考え方がいかに特殊であるか、まさに目から鱗です。